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Ⅵ
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椎名さんの家に着いて、薫がインターホンを鳴らす。またあの険悪な雰囲気が始まる。
そう思っていたのに、出て来た椎名さんは目を見開いていた。まるで想定外とでも言うように。
「――――……」
「お前が呼んだから来た」
「……そ、うだね。入りなよ」
妙なものを感じて首を傾げながら家に入らせてもらった。普段は俺から視線を逸らさない薫が、今は横を向いて俺を見ないようにしていた。
「はい、コーヒー。飲める?」
「あ、はい。飲めます。ありがとうございます」
もらったコーヒーを飲みながら、椎名さんを見つめた。前に会った時はメガネなんてしていなかったのに、今日はメガネをかけていた。
「どしたの?」
「あの、メガネ……」
「ああ」
椎名さんはメガネを外しながら「これの事ね」と言った。そのメガネを大事そうに持っていた。
「伊達メガネだよ。私の初恋の人からもらった物でね、私に似合うだろうとくれたんだ」
「それは、大事ですね」
「私の宝物だよ。仕事の時以外でかけてなかったんだけどね」
つまり、椎名さんは仕事中だった……?椎名さんが、俺に会いたいって言ったのに?
もしかして、薫は嘘を言った?椎名さんが、俺に会いたがっているという嘘を。
「智里」
俺が考え込んでいると、薫が椎名さんを呼んだ。椎名さんが無表情で薫に答える。
「何?」
「ちゃんと行くと言っていたはずだけど」
「……そんな事も言っていたかな。忘れたけど」
「お前……!僕の言う事くらいちゃんと聞けないのか!」
「怒鳴らないでくれる?近所迷惑」
何だ、智里さんが忘れていたのか。納得するのと同時に、やっぱりどこかで小さく残った違和感が消えなかった。どうして違和感が消えないのか全く分からなかったから、俺はその違和感を無視した。
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