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Ⅶ
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今日は薫がロケだとかでこっちにいないので、久しぶりにゆっくりできそうだった。
あの小説もハッピーエンドまで読んでしまった。登場人物を羨ましいと思うと同時に、誤解が解けて結ばれた事が自分の事のように嬉しかった。
「今日はお迎えなさそうだなー」
一木が放課後、俺にそう言った。俺はそんな一木を見てため息を吐いた。
「お前と帰る事も少なくなったな」
「まあ、仕方ないよね」
「俺のプライベートの時間を奪われた気分だ」
「実際奪われてるけどねー」
もう慣れた。薫は「止めろ」といくら言っても聞かないんだから……仕方ない。
だけど、ディスクを見る余裕もなく眠ってしまうのがいつも惜しいと思う。
ディスクを見る為に明日はどう薫を避けようか考えていたら眠ってしまうんだ。
「バイト、休みだったよな?」
「そう。定休日だよ」
「久しぶりに歩いて帰りたい」
「なら一緒に帰ろうぜ」
俺は二週間ぶりの窓ガラス越しでない青空を眺めながら歩き始めた。
一木が俺に言った。
「なあ、志賀」
「ん?」
「お前、あれから三か月は経ったよな。ヒートは?」
「あー……」
俺は最悪だった最初のヒートを思い出した。……そういえば、あれ以来ヒートは来ていない。
「まだ来てない」
「は?おかしくない?」
「知らない。俺は良くも悪くも、普通のオメガじゃないからな」
そんな俺達の隣を、校内でも有名な「番」が通った。一木がその二人と俺を交互に見た。
一木はこれでも空気を読んでいるつもりなんだろうが、俺とあの二人を交互に見る時点で空気が読めていない。
……あの人が俺の隣にいない事を、こういう時に実感する。
「……志賀、」
「黙ってて」
「ごめん」
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