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Ⅶ
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「失礼します」と息を荒げて診察室に入って来たのは、俺の担当である――俺に織部の事を伝えた女性の笹部さんともう一人。
白衣のまま慌てて来たらしい男の人――織部の担当だった岡本さんだった。
「笹部さん……岡本さんまで」
「志賀くん!」
笹部さんが俺を抱きしめた。体が震えている。あの時のように、また泣きそうな顔をしている事はすぐに想像がついた。
笹部さんも白衣のままだから、おそらく急いで来たんだろう。「オメガという劣等種」の為に走って来てくれる研究員なんて、そういないだろうに。
「……笹部さん、俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ!君がどうしてこんな事に」
笹部さんは少し大げさな所があるから、と思いながらも俺を心配してくれる事がとても嬉しかった。親には言えなかったし、そもそも周りは皆俺の運命が薫だと思っているから。
織部と俺の事を知っているのは一部の人達だけだ。
笹部さんが俺の代わりに泣いてくれるから、俺の不安は吹っ飛んでしまった。
「大丈夫、笹部さん。今までと同じだから。薬を飲んでいれば問題ないと思うし」
「……強いね、志賀くん……」
笹部さんの背中を優しく擦って落ち着かせようとした。笹部さんが泣き顔でそう呟くのを聞いて、俺は言った。
「まさか。強くないですよ。ただ、思い出したんです。俺は一人じゃない」
強いヒートが来るかもしれない。それは怖いけど、俺は一人じゃない。それを笹部さん達のおかげで思い出した。大丈夫……俺は一人なんかじゃない。
「俺に何かあったら研究放り出して来てしまうような、笹部さん達がいますから」
「えっ」
今頃自分の格好を思い出したのか、岡本さんも笹部さんも顔がみるみる赤くなっていった。
俺はそれを見て笑ってしまった。俺の事で必死になって、着替えるのも忘れてきたんだろうな。
「もう!志賀くん!!」
「あっははは」
ただ、次に呟いた笹部さんの何気ない言葉が俺の胸を刺した。
「早く、次の「運命」が現れるといいのにね」
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