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Ⅷ
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「これ、織部の……!?」
驚いて椎名さんに言うと、椎名さんは頷いた。
ということは、これはやっぱり本物か。何故、椎名さんが今頃俺に……?
「どうして」
「お兄さんが亡くなった時、ちょっとね。でも、お兄さんはずっと「いつか大切な人にあげるんだ」と言っていたから……君に、返す時が来たんじゃないかと思ってね」
ああ、そうか。だから椎名さんは薫のいない時にと。
全て納得した、と思った時……一木が言った。
「じゃあ何で今まで返さなかったんですか?いつだって返せたはずでしょ」
「……」
一木の言葉に俺は動揺した。それは、そうだ。いつだって椎名さんは俺に返せたはずだ。
なのに、どうして。でも、それは俺が踏み込んでいい事なのか。
それに……今、そんな事言って指輪を貰えなくなってしまったら。
不安になっていく俺に、椎名さんはポツリと呟いた。
「どこかふわっとした子かな、と思っていたけど。君、意外と鋭いね」
「……俺、あんたの事嫌いだわ」
「一木!」
いきなり失礼な事を言う一木に驚いて、一木を嗜めたけれど一木は全く撤回しようとはしなかった。
椎名さんも「いいよ、別に」とさらりと気にした様子もなく流してしまった。
「やっぱり不自然だよねえ、雪人くんが純粋すぎるだけで」
「当たり前だろ。あんた、志賀に嘘ついてまで何を隠してる?」
「一木!失礼だろ!」
「志賀、ちょっと黙ってて」
タバコに火をつけ、一服した椎名さんは笑って言った。
それは、酷く歪んで……悲しい笑顔だった。
「だって、言えないよねえ。私の初恋が、お兄さんだったなんて。運命の相手の前で」
「!」
俺は目を見開いた。じゃあ、あの伊達メガネをくれたのも……織部?
一気に俺は不安になってしまった。
この指輪を返してくれるのも、本当はかなり勇気が要ったんじゃないのか。
この人はずっと、織部を思い続けていたんじゃないのか。俺なんかより、ずっと。
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