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Ⅻ
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帰宅して、ベッドに倒れ込む。緊張したり、落ち着いたりと体にストレスを掛け過ぎたのだろうか。とても疲れた。
「雪人、お帰り」
「薫!?」
部屋に入り込んできた薫に驚いて跳ね起きる。
薫は今日、仕事だった筈だ。遅くなると聞いていたので、油断していた。
薫には増やしているバイトの事も、今度の家庭教師のバイトの事も言っていない。
「幽霊でも見たような声出さないでほしいなあ。僕だって傷付くんだから」
「ご、ごめん」
「ちょっと仕事が早く終わっただけ。もし、大学も早く終わったんだったら雪人を迎えに行こうかなって思ってたんだけど」
そうなんだ、そう答えてベッドから降りようとしたらぐるりと景色が変わる。
薫の少し明るい茶髪が見える。押し倒された事に気付いたのは、薫が俺の腕を掴んでベッドに押し付けている事に気付いた時だった。
「おい、薫!?おいっ、ちょ、離せよ!」
「僕じゃないアルファの匂いがする」
低く呟かれたその声に、一瞬背筋が凍った気がした。夏が近づいてきて暑い筈なのに、何故かうすら寒い。
俺の腕を掴む薫の力が増していく。痛くて振りほどこうともがいた。
「どこに行っていたの?雪人のバイト先にアルファは居なかったよね?いや、雪人はアルファに近付かないようにしていた筈だ。僕以外はね」
寒い。寒くて震える。薫はそんな俺にお構いなく、首筋に顔を近付ける。
オメガじゃなくても知っている。「うなじ」を噛まれれば、番が成立する。
番を望まないオメガにとって、一番守るべき場所だ。
「薫、止めろ!」
「いっそのこと、ここを噛んでやろうか」
「ふざけんな!俺の運命は、織部だけだ!」
薫の動きが止まる。少し間が空いて、薫は体を起こして無邪気に笑った。
「アルファの力って強いでしょ?雪人、アルファの所に行くなら気を付けなきゃいけないよ」と。
俺はうなじを押さえながら体を起こす。そして、薫を睨み付けた。
「冗談が過ぎるだろ、薫」
「ごめん。僕以外のアルファが、君に匂いを残すくらい近くに居ると思わなかったものだから」
薫は、嘘を吐いている。嘘吐きの表情(かお)を、俺はよく知っている。
織部の父親の声が、俺の中で響いてくる。
薫が、おかしい。少なくとも、最初に会った時の薫じゃない。
それでも、見て見ぬ振りをする事にした。そうしておきたいと、薫が思っているのはよく分かるから。
必死に、俺に押し隠すように。冗談にしてしまおうと。
「……いい、勉強にはなった」
「そう、よかった。ご飯出来てるから食べようか」
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