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Five 嘘吐きの独白
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昔から嘘は得意だった。幸か不幸か、アルファの恵まれたこの容姿は僕が吐き出した嘘を加速させる。
誰も僕を疑いはしない。
数年前に死んだ兄は嫌いじゃない。優しい兄だ。
だけど、兄に対して僕は複雑な感情を持っていた。
兄に似ている。兄そっくりだ。そう言われる度に思う。
僕は、兄さんみたいにお人好しにはなれない。
僕はオメガを好きだとは思えない。オメガの浅ましさを知っているからだ。
オメガはアルファを惑わせる。誘惑するしか能の無い奴等。
ずっとそう思い続けてきた。
雪人に支援を申し出たのは心底「兄の運命」を支えたいと思ったからだ。
雪人に会うまでに何人か「自称兄の運命」は居た。全部政府の研究機関に問い合わせて嘘だと分かったけど。
また偽物が現れて問い合わせた時、ようやく「兄の運命」が現れたと回答が来た。その時の僕の衝撃は、とても大きかった。
嘘だと思った。実際に会うまでは信じないと。
でも、雪人に会って分かった。雪人はアルファが嫌いだ。僕がオメガを嫌いなのと同様に。雪人は演技が出来るほど器用ではないから、僕を騙しているとは思えなかった。
そんな雪人が兄の運命なら仕方ない。僕は素直に受け止めた。
雪人を支え続けて、表向きで雪人の運命が僕だという事にしておいても。
雪人は僕に対して一線を引き続けていた。
そうか。ずっと信用されなかったのは、雪人が僕と離れているからだ。だったら、間近で……。いや、一緒に暮らして分かってもらえばいい。僕は信用に足る人間だと。
だからまた足掻いた。多少強引な手を使った。だけど、引かれた一線は絶対に崩れなかった。
そんな時に気付いた。僕は、雪人に「僕」を見てほしいのか?
考えただけで寒気がした。この僕が、オメガ如きに惹かれている!?有り得ない!
違う、雪人が、オメガが僕を誘惑している!僕は必死にそう思い込んだ。
そうか。「オメガ」がそうさせるのなら、僕にも考えがある。
僕の、「アルファ」の許された権限全てで雪人を誘惑する。そうして醜い「オメガ」を引きずり出してやる。
君だって、他の「オメガ」と変わらないんだ。絶対に。結局は「優等種(アルファ)」を求める「劣等種(オメガ)」でしかない。
だから僕は今日も甘い言葉を吐く。雪人を逃がさないように、雪人が「オメガ」に成り下がってしまうように。
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