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Four 遠く離れた友人に
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俺はふと、いつも不機嫌そうだった友人の事を思い浮かべた。
志賀はオメガとしての自分の立場を分かっている。だからこそアルファを忌避し、徹底的に避けた。
俺以外。
志賀がもう少し賢い奴だったら、俺にも近付かなかっただろう。なんだかんだ言いながら志賀はお人好しで臆病だ。
そんな志賀と話すのは楽しい。馬鹿の振りをして志賀に甘えると、志賀は仕方ないと文句を言いながらも俺の世話を焼く。
織部薫を最初に見た時、別に気にしなかった。あれは典型的なオメガ嫌いのアルファだ。志賀が近付いても「何とかなる」アルファだから問題ない。
そう思っていた。
だけど、しつこい送迎に自分のオメガへの引き合わせまで強引に流れを持っていった。自分のパートナーじゃなくても怒るレベルだ、志賀を何だと思ってんだあのくそアルファ。
テメエに志賀をどうこうする権利ねえだろうが、ボケが。
予想通り、今までの自由が奪われた志賀は疲れていく。俺は「アルファの人脈」でくそアルファにどこでもいいから遠くでの仕事を受けさせた。
かったるいアルファのお家様のパーティーとか行っといて正解だったわ。
何とかマシになったかと思えば、今度は椎名千智だ。一目で分かった、コイツは駄目だと。
あのくそアルファの番だけはある。意地とプライドで生きてる、似た者同士だ。コイツも志賀の味方にはならない。
「最ッ悪だ」
クソッタレ。椎名の家から出る時、俺は志賀に聞こえないように小さく呟いた。椎名には俺の言葉が聞こえていたはずだが、笑っていた。
ムカつく。そういうところまで番同士そっくりかよ。
俺が個人的にくそアルファと椎名が嫌いだとしても、それで志賀に関わるなと言う事は出来ない。それじゃアイツらと同レベルになるだろ。
そして卒業式の日。あのくそアルファめ、やらかしてくれやがった。
志賀の両親を騙して、志賀を無理矢理同棲させやがった。表向き、志賀とあのくそアルファは運命の番だってことにしてある。本当に運命なら、卒業した後に同棲するなんて、何の不自然も無い。
「ふっざけんな!!!」
俺はその日、志賀を連れ出そうと思った。身勝手すぎる、志賀を何だと思ってんだ。
だけど、それは出来なかった。
「来ると思ったよ、クソガキ」
俺が手に入れていた「志賀と暮らすだろう場所」の情報は、わざと掴まされた物だった。そこにいたのは椎名だけで、人が暮らしている様子も無かった。
「雪人くんの事も考えな。薫の手助け無しに、「運命」を失った雪人くんが普通の暮らしが出来ると思う?」
私も、薫のオメガ嫌いが治るなら万々歳。煙草を吸いながら、椎名は言った。自分の迂闊さを呪った、甘かったんだと思い知った。
志賀の居場所はその後、すぐに分かった。でももう連れ出そうと思えなくなっていた。志賀にとって、本当に大事な事が分からなくなっていく。
今日も俺は臆病なまま、志賀を心配している事しか出来ねえ。ごめん、志賀。
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