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Two 嫌な予感はしていた
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私は薫の運命だ。
素直に口に出せない私が正直恨めしいと思う。そして、今はそれを口に出せる状況じゃない。
雪人くんに支援が必要なのは理解している。私もオメガだから。静さんを失った雪人くんの体には、本人が理解していなくても相当な負担がかかっている。
私の仕事はライター。少しでも薫を理解しようと始めた仕事だった。
溜息を吐いて、眼鏡を外す。今度紹介する俳優のインタビュー記事はこれくらいで良いだろう。煙草に火をつける。
「……承諾した、けどね」
口に出したけれど、私の中にはやはり納得出来ない部分がある。理解は出来ても、納得出来ない。私は薫の運命であり、薫は私の運命だ。
何故自分の「運命」が他のオメガと暮らすことを許さなければならないのだろう。
それに、私は拒絶するくせに……薫は雪人くんだけは拒絶しない。
同じオメガだと言うのに。私も、雪人くんも。同じだと言うのに、何故。
理由はいくつでも浮かぶ。浮かんできたところで、やはり納得出来ない。
不意に目に入る、私と静さんと薫の写真。あの頃は三人共笑っていた。
静さんを取材した事が一度だけある。そして、あらかじめ用意されていた質問内容にあった「運命」の話。
その質問を口にした時、静さんは表情を曇らせた。私も見た事が無い表情だった。
「私の運命はね、見付からない方が良いんだよ」
内緒ねと彼は言った。確か、あの取材は静さんが亡くなる少し前の事だったと思う。
私はひどく驚いて、少しだけ嬉しくなった。何と醜いのかと自分でも思ったけれど、静さんが「運命」を望まない事で安心してしまった。
この人は、誰の物にもならないのだと。
そんな静さんの「運命」で、薫が拒絶しない唯一のオメガ。
雪人くんは、私から大事な物を奪っていく。
「違う、雪人くんは奪わない」
雪人くんは静さんだけを必要としている。そして、それ以外のアルファを嫌っている。あれだけ近付く薫ですらも一線を引いて。
分かっているのに、分からない。私はこんなに愚かだっただろうか。
一体私はいつから、これほど物分かりの悪い男になったのだろうか。
嫌な予感がする。私が私でなくなるような。
私は薫の運命。薫は私の運命。互いに何度も否定しようとして、失敗した明確な事実。
この事実が、揺らぐはずが無い。大丈夫、今感じている予感は私の考え過ぎだ。
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