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One 私の役目
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「お疲れ様です」
「お疲れ様」
研究員達が帰っていく。私は帰らずに残っていた。
一刻も早く、彼が「幸せになれる」ように手を打たねばならない。
私は彼を幸せにすると約束した。
「いきなりごめんね、岡本さん」
珍しく彼は私を呼び出した。アルファ、オメガは検査の後に担当の研究員が付く。アルファまたはオメガの補佐を行う為だ。基本的にアルファにはアルファかベータの研究員、オメガにはベータかオメガの研究員が担当になる。
だが、大抵その関係性は医者と患者のようなもので、親しい訳では無い。
「それは良いけど、どうしたんだい?珍しいね、私を呼び出すなんて」
「多分……今日「運命」の子を見たよ」
私は目を見開いた。彼には十数年、「運命」に当たるオメガが居なかった。
ここまで見付からなかった例はあまり無いが、人口を考えれば珍しい事でも無い。
それがまさか、検査も無しに「彼自身(アルファ)」が見つけるとは思ってもみなかった。
「それは確かなの?」
「多分ね。あまり、幸せそうには見えなかった」
私が考えるより、オメガに生まれるのは酷な事なのかもしれない。
深い後悔を思わせる低い声で彼はそう呟いた。
彼は暫く別件でアルファとオメガの関係性に悩まされていたから、尚更そう思ったのだろう。
「私はあの子を幸せにしてあげたいと思ったんだ」
「そうか」
「でも、きっと。私には出来ない。その前に、私が消えてしまう」
そんな冗談を言う物じゃないと私は怒った記憶がある。彼は冗談じゃないよと真面目な顔をしていた。
実際、その言葉通りになってしまった。彼は数日後、事故に遭ってこの世を去った。
「だから、岡本さん。私の代わりに、あの子……志賀くんをお願いします。私の代わりに幸せにしてあげてほしい。
オメガに生まれた事を、後悔しないくらいに」
私は彼からそう託された。数年経って検査にやって来た志賀くんを見て、彼の言葉の意味がよく分かった。私もアルファで、番がいた事がある。
その彼女は、周囲の視線が辛いとよく言っていた。オメガに向けられる差別の目が怖いと。
志賀くんは検査の前から諦めているようだった。そして、アルファもベータも寄せ付けないような目をしていた。
礼儀正しいけれど、近付きがたい。周囲全体が敵だと言っているようなその態度は心が痛んだ。
「君がいたなら、幸せだったのかもしれないね」
彼の担当である笹部さんは、彼の次の運命を探そうと今日もアルファのDNAサンプルと向き合っている。だが、私には次の運命を探す事が彼の幸福だとは思えなかった。
だから、今の私に出来る事はたった一つ。
私と「彼」が悩まされていた相手をどうするか考える事だった。
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