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泡沫
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「雪人。雪人、起きなさい」
優しい声がする。ゆっくりと揺らされて目を覚ますと、ぼんやりと綺麗な顔が見えてきた。
「……薫か」
「私を薫と間違えるなんて、珍しい事もあるものだね」
薫より低い、優しい声。
嘘だ。そんなはずが。
驚いて俺は跳ね起きた。そんなはずが無いのに。
「おりべ……?」
「出会った頃のように呼ぶね、久しぶりに呼ばれたから懐かしいな」
俺を見るその顔は、何度も俺に向けて欲しいと願ってきた俺の「運命」のものだった。
悲しくて、好きで仕方なくて、衝動のままに俺は微笑む織部にしがみついた。
「怖い夢でも見たかな?今度のヒートは重かったからねえ」
「ちが、違うんだ……!」
その瞬間、気付いた。目の前の織部から体温を感じない。
やっぱり夢だ、これは。都合の良すぎる俺の願望。
一気に叫びたくなる衝動に襲われて、更に畳み掛けるように涙が溢れ出た。
「夢なら、覚めろよ。こんなの惨めだろ」
「私は絶対に嫌だよ、自分の運命を手放すなんて」
そういう意味じゃない。そう言いたかったが、夢だからか曖昧になってぼんやりと意思がなくなっていく。
「どうしたの、雪人。大丈夫、私が傍にいるから」
「アンタは、傍に……」
何と言おうとしたんだろう。ダメだ、よく分からない。
「どんな君でも、私は君を愛している自信があるからね」
夢のくせに、その言葉はハッキリと刻まれた気がした。
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