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悪夢の夜
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(頭・・・痛い・・・知られてしまった。勇君にだけは、知られたくなかったのに・・・)
うす暗い路地を、ふらつきながら歩く。
溢れ出る涙を、優は何度も袖で拭った。
いつからだろう。自分で自分が分からなくなったのは。
自分の中に、他の誰かが住みついている。分かるのはそれだけだった。
それは、度々記憶が飛ぶせいだ。
そして、その間に接触したのであろう人間から、身に覚えもないことで、責められたり詰られたりするのである。
(そうだ・・・僕がこうなったのは、あの日から・・・酔っぱらった父さんに、酷い事をされた、あの晩からだ。)
思い出すのも恐ろしく、ずっと封印してきた記憶が、ふいに、映画のワンシーンのように脳裏に蘇る。
あの日は、夕方から雨が降っていた。
11歳の優は、小学校からの帰り道、傘を友達に貸してしまい、濡れネズミで家に帰った。
濡れた体を早く洗いたくて、急いで風呂にかけこんだ。シャワーを浴びてすぐに部屋に戻ると、何故か、自分の部屋に、酔っぱらった父がいた。
「よお、帰ってたのか。」
「父さん、また飲んでるの?」
「そう恐い顔するなよ。せっかくの母さんに似た可愛い顔が台無しじゃないか。」
“母さん”というのは、勇の母ではない。自分の生母のことだと優は知っている。
亡くなった母のことを、父が忘れずにいることは、優には少し嬉しかった。
だが、そのせいで、父は、勇の母を心から愛しきれずにいたということも事実なのだ。
勇たちが離れて行ってしまったのは、優にとって何より辛いことだった。
「昼間からお酒飲んだら、体壊すよ。いい加減に・・・」
「優・・・お前、本当に、美香によく似て来たな。」
父がそっとにじり寄る。酒臭い空気が、一層酷くなった。
無意識に後ずさった優の腕を、父の手が掴んだ。
何故か、息の荒い父の表情は、まるで獣のように見えた。
「父さん?」
優の言葉を父の酒で汚れた唇が遮った。
突然の出来事に、優の硝子玉のような瞳が驚きに見開かれた。
ぬるっとした熱いものが、口内に流れ込んでくる。アルコールと唾液の入り混じった匂いに、優はむせかえりそうになってもがいた。
すると、父はその体勢を面白がるかのように、優をベッドへと押し倒した。
唇が離れ、唾液が糸をひいた。何が起きたのか、幼い優は状況を把握しきれず、呆然となった。だが、父の手が、衣服を裂き、裸の胸を愛撫し始めたとき、その恐ろしさにようやく感情のスイッチが入った。
「いや・・・何・・何するの・・・父さん、やめて・・・」
急いで起き上がろうとすると、勢い良く頬を打たれた。
「や・・・・嫌!離して・・・離してよっ!」
毛むくじゃらのごつごつ骨ばった父の指先が、踊る様に優の太ももからズボンを剥いだ。
恐怖に泣きじゃくる優に、父は興奮しているようにも見えた。
「ほら、大人しくしろ。可愛がってやると言ってるんだ。」
「いやっ・・・ゆうくん・・・ゆうくん助けてっ!」
いくら、暴れ叫んでも、次々と着ているものを脱がされ、父の舌に肌を弄ばれる。
ぞくぞくと鳥肌が立ち、嫌悪感でいっぱいになるが、誰も助けには来ない。
「やめ・・・ゆうくん・・・助けて・・・いやだ・・・いやっ・・・いやだっ!」
まだ、精通さえ迎えていない優の大事な場所を、父は口内に頬張り、愉快げに舌を動かしてみせる。
「いやあ・・・あああ・・・ああ・・・」
これまで一切感じたことのない、何とも凄まじい感覚の嵐が優の全身を駆け抜けてゆく。
「感じてるのか?ん?このエロガキが・・・」
「ああっ・・・嫌だ・・・あっ・・・うあ・・・」
(何・・・これ・・・恐い・・・恐い・・・ゆうくんっ!)
甘く上ずった声が、知らないうちに溢れ出る自分の口を、優は恥ずかしさにぐっと噛みしめる。
「んッ!?んあっ!何・・」
「やっぱり狭苦しいったらねえなあ、お前の穴!」
太い指が、中を突き破るように押し入ってきて、優は完全にパニックに陥った。
(気持ち悪い・・!!やだっ!やだっ!)
暴れたら、その都度殴られ、酷い痛みを味わう。恐ろしくてたまらないのに、優の体はガタガタ震えたまま動くことも出来なくなり、父のされるがままになった。
父は唾液をたっぷり塗った指で、優の中を何度も何度も貫いた。やがて、火傷したみたいに熱い感覚だけが残り、摩擦の痛みが麻痺してきた。
「ああ、我慢ならねえ。そろそろ・・いいだろう。」
ぼそりと呟いた父が、真っ黒い悪魔に見えた。
白く細い足が持ち上げられ、父の体が股の間に割り込んできた。
純真無垢といえど、優も10代を迎えている少年である。父が自分にどのような行為をしようとしているか、分からない訳がなかった。
「いやあああっ!!」
尻に固く熱い塊が押し付けられた瞬間、優は火がついたみたいな叫び声をあげた。
欲望に昂った父のそれは、ゆっくりと優の奥を突き進み、破瓜の痛みと血の流れる感覚に、優はくらくらと目眩を覚える。
その時、どこからか、耳に馴染みある声が聞こえてきた。
「優・・心配いらない。今すぐ俺が、お前を助けてやる!」
(勇・・君?)
優の意識は、そこで途切れた。
気がつくと、朝、優はいつものように自分のベッドの中にいた。
(あれは、夢だったのか・・?)
そう思って起き上がると、腰に嫌な痛みと重さを感じ、優はゾッと背筋が寒くなった。
その日から、父は、酔うと決まって優の体に触るようになった。そして、不思議なことに、優の意識もまた、父といる時、やたら途切れるのである。
父との肉体関係は、優が14歳になるまで続いた。だが、あれ以来、優は父に抱かれる感覚を味わずに済んでいた。それが奇妙なことに感じられるようになったのは、中学生になってぐらいからだ。
誰かが、自分に代わって父に抱かれている。
そんな感覚が芽生えていた。
学校の図書館で、多重人格について書かれた本をみつけ、夢中になって読んだ。
思いきって当時の保健医に自分が多重人格者なのではないかと相談したところ、信頼出来る精神科医を紹介してもらえた。
優は今も、その精神科医、倉科英治のもとに通っている。
彼のおかげで、優は心に安らぎを取り戻せつつある。
優の立場を、倉科はいつでも親身になって考えてくれるのである。
(そうだ・・先生のところに行こう。)
誰もいない家に帰っても、また嫌な過去を思い出して、苦しいだけだ。
優の足は、家と正反対の場所を目指した。
その背後から、自分を追うもう1つの影があることに、優は気づいていなかった。
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