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The wing which died surely turns into love
怒りと心配の混濁
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俺の横を通り過ぎた月香は、男の横にしゃがみ込んだ。
俺の足の下で、怯えたように瞳を閉じ、瞼を上げようとしない男のこめかみを掴んだ月香は、記憶を消す。
少しだけ力んでいた男の身体が、ふっと弛緩し、意識を絶った。
「呪力は、無限では、ありません」
悔しそうに歪んだ月香の声が、聞こえた。
俺の瞳には、月香の背中、大きく広がる翼しか見えていない。
どんな顔をして言葉を紡いでいるのか、俺には、わからない。
「ここの空気は、私たちの翼の成分を含んでいない。呪力を使いすぎれば、朽ちるのも早くなる……」
怒りと哀しみが入り交じったような複雑な声で、月香は静かに怒鳴り、振り返った。
ぐっと寄る眉間の皺は、俺を心配して諭すときの顔と一緒だった。
刺青が短くなっていたのは、翼の衰退によるものだったのだろう。
俺なんて朽ちたって、誰も悲しまない……。
そう思ったのも、つかの間で、結芽の顔が脳裏を過ぎていった。
「……悪ぃ」
申し訳なさげに紡ぐ俺の謝罪に、月香は、すっと瞳を細めた。
ふわふわと揺れる俺の右の翼。
指先で触れた月香は、きゅっと眉間に皺を寄せる。
「大分、使いましたね……」
はぁっと呆れるような溜め息を吐いた月香は、1歩、俺に寄る。
「自重して下さい」
呟いた月香は、俺をふわりと抱き締めた。
「な……に?」
月香に抱き締められたことなどない俺は、動揺に声を上擦らせた。
「少し…、修復します。大人しくしてて下さい」
ドクン、ドクン、拍動する月香の心音を感じた。
翼の付け根に触れる月香の手から、じわじわとした温かさが俺を包んでいた。
「本当はいけないコト、なのですが……。あなたが居なくなると、悲しむ者がいるので」
尻窄みに小さくなった月香の声。
俺の脳裏には、再び、結芽の顔が浮かんでいた。
ふぅっと小さく息を吐いた月香が、俺を腕の中から解放し、背を向けた。
「広げる必要もなかったのですが…やはり、出している方が安定しますからね」
独り言のように呟き、翼を身体へと寄せた。
自身の翼を一撫でした月香は、もう一度大きく広げ、それを体内へと収めた。
ふわりと翼を背に収めた月香は、手にしていたジャケットを羽織る。
「あと………」
俺に背を向けたままの月香が、付け足すように声を発した。
「思った通りに出来なかったこと、ありますよね?」
月香の言葉が何を指しているのかわからない俺は、きゅっと眉根を寄せた。
「元から力の無い貴方は、片翼を封印され、より呪力の安定に欠けるはずです」
肩越しに俺を振り返り、月香は、叱るような瞳を向けた。
力の無いコトを指摘された俺は、面白くなさに、瞳を細めた。
「力を使い過ぎるのは、貴方にも、相手にも負担だと言うことです」
すっと視線を外すように前を向いた月香は、覚えておいてくださいと付け足し、大通りに向け歩を進めた。
俺は、月香の後を追うように、足を出す。
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