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The wing which died surely turns into love
幻覚だと思いたい < Side Y
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考えたところで、答えのでない疑問。
感じたところで、解消しえない不安。
蟠る心をそのままに、俺は、佳梛と暮らしていくことしか出来ない。
話をして、佳梛の手を放すという選択肢は、俺の中にはなかった。
考えないようにしようと、仕事に精を出していた。
そんなバイトからの帰り道。
あと数百メートルという距離、家への道すがら、なんとなく木々が生い茂る公園へと向けた瞳。
映ったのは、佳梛と知らない男の姿。
くすんだ茶色の髪は、腰まで届きそうなほどに長いが、身体のシルエットから、男だということが見て取れた。
こちらに背を向けている佳梛に、男の手は、シャツの中へ入り、背の肌に触れていた。
抱き締められる姿に、それは、佳梛じゃないのだろうかと思った。
でも、俺が佳梛の姿を見間違うはずもなく。
俺は、止まってしまった自分の足に、その光景から視線を外すことが出来なかった。
″俺に、飽きた…?″
思っていた現実が、突きつけられた気分だった。
佳梛を抱き締める男の瞳が、瞬間、俺と重なった。
男の唇の端が、上がった気がした。
ゆっくりと重なる顔の影。
どう見ても、佳梛と男は、キスをしていた。
瞬間的に避けようとした佳梛に、抱き締めている男の手が、それを阻む。
何を言われたのか、佳梛が大人しくなった。
男の口づけを、受け入れていた。
『キッショっ!』
あれ……。なんだ、この声……。
『男同士とかマジでねぇは!』
あれ? ………佳梛は。
佳梛から顔を離した男の瞳が、再び、俺を見る。
その視線に弾かれるように、俺は、一歩前へと足を動かした。
ポツポツと降りだした雨が、俺を濡らしていった。
ぐるぐると混ざる、もやもやとする感覚。
佳梛が飽きてしまったのなら、俺は、その手を放さなければいけない。
佳梛を責めるのは、どこか違う気がしていた。
でも、胸に渦巻くのは、嫉妬の感情で。
佳梛を責めるようなこの真っ黒な感情は、思い通りにならない憤り。
自分勝手な怒り……。
降り注ぐ雨を、浴びるように顔を上げた。
この真っ黒な感情を洗い流して欲しいと願うように。
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