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The wing which died surely turns into love
少しでも長く、少しでも傍に
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距離を詰め、すっと伸びてきた月香の片手が、結芽のこめかみを、ガッと掴んだ。
瞬間、月香の背に、大きな翼が広がった。
茶色かった髪は、一気に金色へと変化した。
変貌した月香の姿に、結芽が息を飲む音が、聞こえた。
「最後の勧告です」
月香の言葉に、空気が、ピリッの張り詰めた。
「今なら記憶を消せる。貴方との時間を消し、私が綺麗に補完します。だから、私と共に帰っては、くれませんか?」
月香は、俺を見やり、眉尻を下げた情けない顔で、問い掛けた。
返答に詰まる俺に、月香は、顔を歪ませる。
「……貴方が、朽ちる姿を見たくはないのです」
苦しそうに紡がれる月香の言葉に、俺は、視線を背け、顔を俯けるコトしか出来なかった。
月香の言葉に反応したのは、結芽だった。
「朽ち、……る?」
こめかみを捕まれたまま、動くことも儘ならない結芽が、ぼそりと声を零す。
「この場所は、私たちにとって害でしかない。貴方と居るコトは、音里にとって、寿命を縮めるコトと同じ」
結芽の両手が、月香の腕を掴んだ。
月香の指の隙間から見える結芽の顔は、歪んで見えた。
「帰れ! 俺の記憶消して、帰れよ!」
結芽の叫び声が、部屋に響く。
結芽の居ない世界で、生きたくはない。
俺だけ、結芽との記憶を抱えたまま、それに縋って長生きしたって…、仕方ない。
結芽が居ない世界など、生きたくはない。
俺は、もう、離れられないんだ。
例え寿命が短くなろうとも、そのほんの少しの間でも、俺は結芽と居たいんだ……。
俺は、小さく首を横に振り、月香の誘いも、結芽の叫びをも、否定した。
「俺は帰らない。結芽と居たいんだ……」
じっと睨むような瞳を向ける俺に、結芽のこめかみを捕える月香の手に、力が入った。
「結芽の居ない世界など、要らない。結芽が隣に居ないなら、この世界に、価値などない……」
俺は、月香の腕を掴む結芽の手に、手を重ねた。
「離れても、いつか、また、会える。互いの寿命が尽きたとき、再び会える…かもしれない。でも、結芽のいない世界で、生きていたくなんて、ないんだ」
小さく頭を振るい、空いている手の指を折る。
「結芽に会えるまでの月日を指折り数えたところで、その時間は縮まるはずもなくて…。そんな辛く悲しい時間を独りで過ごすくらいなら、縮まる命を甘んじて受け入れる」
すっと持ち上げた俺の視線に、映った月香の顔は、怪訝そうな表情を浮かべた。
「少しでも長く、少しでも傍に居たいから。我儘で、…ごめん」
最後の言葉は、結芽へと向けた言葉だった。
「たとえ俺が朽ちて消えても…、それでも、幸せだった記憶を抱いて、温もりの傍で、……朽ちたい」
泣き出しそうだった。
自分の消失を語るコトに、寂しさや悔しさが無い訳じゃない……。
湧き上がる涙を押し止めるように、俺は、奥歯を深く噛み込んだ。
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