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The wing which died surely turns into love
贅沢な願いは、叶わないと知っている
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はぁっと小さく息を逃がし、顔を上げた。
交差する視線に、気持ちが零れるように声を零した、
「好きだよ、月香」
重なる視線の奥で、月香の瞳が揺らいだ。
オレに重なるのは、父、……音里の影。
知ってるよ。
月香は、オレを通して音里を見てる。
それでも、いい。
傍に居られるのなら。
思っているけど。
心の片隅が、凍えるコトもある。
オレのこの気持ちは、何時まで経っても、月香に届くコトは、ないんじゃないかって、不安になる。
好きだけど。好きだから。
月香の心までもを、欲しいと思ってしまう。
それは、欲張りなコトだってわかっているけど。
オレに向けて、言って欲しい。
好きだって、愛してるって、言葉だけでもいいから、欲しくなってしまう。
「陽静……」
オレの気持ちは、総てわかってるんだろうな。
端から端まで、余すところなく読まれてしまっている。
月香に隠し事をするなんて、オレには無理な話で。
その瞳は、紡げない言葉の代わりのように、雄弁に悲壮を語るんだ。
「ごめん。月香」
月香が声を発する前に、謝った。
顔には、綺麗な笑顔を貼りつける。
好きにならなくていいと言ったのは、オレだから。月香に後ろめたさを与えたい訳じゃない。
「ずっと、代わりでいいよ」
ふふっと笑うオレに、月香は、解せない顔をする。
「親父が死んでも、オレは、月香の隣に居る。そしたらさ、いつか、……死ぬ間際かも知れないけど、オレのコト、……オレとして、…愛してくれるかもしれないじゃん?」
愛されなくても、いいんだけど…と、付け足すオレに、月香は、はぁっと重たく息を吐いた。
スッと伸びてきた月香の腕が、オレを抱き締めた。
「いつか、……いつか、貴方を、……」
″愛したい″……紡がれるはずの言葉は、月香の胸の中へと消えていった。
月香は、それが無理難題だというように、言葉にすらしない。
その願いは、叶わなくてもいい。
ここに、月香の隣に居れれば、オレは、それでいいんだ……。
贅沢は言わないよ。
出来る事なら、愛して欲しいけど。
オレを、オレとして……。
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