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The wing which died surely turns into love
遙夢の温情 < Side H
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音里に再会し、月香の気持ちが再燃するのではないかという不安はあった。
でも、再燃というよりは、ずっと消えない思いで。
音里を忘れられない月香の姿を見ているのが辛かった。
好きだとも伝えていないであろう消化不良の気持ちは、勝手に消滅するコトはなく。
それは、綺麗に美化され、奥底に残り続ける。
未練を断ち切る機会になってくれないか、なんて都合のいいことを考えていた。
まさか、秋雨につけられていたとは、思いも寄らなかった。
月香が抉り取った記憶に、秋雨は、路上に倒れ込んだままだ。
気に食わないヤツだとしても、こんな道端に置いておくわけにもいかない。
じわじわジクジクと身体が痛み、右の翼の先は、真っ黒に変色した。
死ぬことはないだろうと思ったが、想像以上に身体が蝕まれた。
ブロック塀を背に、ギリギリの状態で身体を立てていた。
ぶわっと大きな風を起こし、遙夢が降り立つ。
現状に瞳を這わせ、大方を理解した遙夢は、ふぅっと怒りを殺すように息を吐いた。
「今回のコトは、不問にします。もう、音里のコトは片が付いている。それを執拗に追い掛け、さらには葬ろうとした秋雨にも非はあります」
面倒そうに声を放つ遙夢は、月香へと視線を移し、言葉を繋ぐ。
「もし、このまま目覚めなかったとしても、何を言うつもりもありません」
小さく頭を振るった遙夢は、再びオレを見やり、言葉を足した。
「でも、戻ったら、処罰は受けるコトになるでしょうね」
月香に下されるはずの罰を自分が身代わりになったから。
オレは、諦めるように、重い息を吐き、口を開く。
「だろうね。仕方ないよね。……どっちにしてもまだ飛べないから少しこっちに居るよ。帰ったらちゃんと償うから」
自分の翼の腐敗具合と、月香を見やり、言葉を紡ぐオレに、遙夢がゆっくりと近づいた。
ふわっと開いた手でオレの黒くくすんだ翼に触れる。
ザシュッ………。
遙夢の手が走った部分に激痛が走った。
「………つぅ」
痛みに、翼の付け根を押さえた。
変色した羽が、バラバラと地面へと落ちていく。
「多少は、マシでしょう」
ふんっと鼻を鳴らす遙夢に、オレは、小さく乾いた笑いを零した。
意識を絶ち、横たわる秋雨を肩へと担ぎ、遙夢は飛び立った。
はぁっと深い息を吐き、オレは、ずるずると地面に引っ張られるように腰を落とした。
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