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第1話
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「どうして」
そんなの俺にもわからないのに聞かないでくれよ。
もう何度も自分自身に問いかけてきた。
どうして。
どうして、俺は普通じゃないの。
どうして俺は女の子を好きになれないの。
どうして俺は男を好きになるの。
普通になりたかった。
普通になろうと何度も努力してきた。女の子と付き合ったこともあった。けれど努力でどうこうできる問題じゃなかった。
どうして。
そんなの俺にもわからない。それでも俺は男が好きで、アイツが好きなんだ。
そう言った俺を母親は恨みの篭った蔑むような目で見て、静かに言った。
「出ていきなさい」
穏やかな人だった。
兄を差し置いて俺が一番のお気に入りだと、あの子には言っちゃだめよ、ヤキモチを妬くからと幼い俺に優しく微笑んだ。
『立派な大人になるのよ』
『孫の顔が楽しみだわ』
『きっともの凄く綺麗な人をお嫁に貰うのよ』
幼い頃に母が笑いかけて言ってくれた言葉が頭に浮かんでは転がり落ちていく。
ごめんなさい、全部叶えらなかった。
俺には無理だった。
その夜、荷物をまとめて家を出た。電車に揺られて遠くの駅の改札を出て、また入って、乗り換えて、とにかく出来るだけ遠くへ行った。
誰も、何も、俺のことを知る人のいない所へ行きたかった。
こうなったのは三日前、親友にバレたことが発端だった。何がバレたって、親友の弟と付き合っていたことがバレたのだ。
いつかはこうなると思っていた。
それが少し早まっただけ。
親友の弟の一樹は高校生。
俺は22歳の大学生。
馬鹿みたいだ。
親友の家に飲みにいったりする内に仲良くなって、偶に遊んだりして、そしたら告白された。
『好き、裕之さん』
縋るような目で見上げて俺を見つめる深いブラウンの瞳が光を取り込んでキラキラ光る。眩しかった。綺麗だった。
そう思った時にはもう、この男の子に俺はどうしようもなく惹かれてるのだと気付いてしまった。
俺は悪い奴だ。
俺は駄目な奴だ。
俺は、最低だ。
断るべきだった。でも出来なかった。
好きだった。どうしようもなく好きだった。
俺は、馬鹿だ。
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