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第3話
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親友が俺と一樹のことを俺の母親に言った。念には念を押すつもりで言ったのだろう。親の目があればなかなか一樹に合うことは出来なくなる。
そしてとうとう俺は母親にも拒絶された。
駅を降りて、改札を出る。
知らない街に人がごった返す。
薄暗い空を埋め尽くす、原色に光る看板。
肩がぶつかろうが、荷物がぶつかろうが、知らん顔で通り過ぎていく人々。
誰一人として俺が男を好きだなんて思わないだろう。
誰も、何も、俺を知らない街。
冷たくて気持ちのいい風が肌を掠めた。
住んでいたあの町とは全く正反対の場所だった。
今頃、一樹は学校だろうか。
あの日、分かれてから三日が経った。ボーっとして、気がつけばそんなことを考える。
未練がましいなあ、と一人苦笑する。
これで、良かったのだろう。そもそもあの日付き合わずに一樹を拒んでいたら、あんな風に泣かせることもなかったんだ。
俺のせいで一樹を深く傷つけてしまった。
空に向かって、ポツリと呟く。
ごめんな、本当に。
きっといつか俺のことなんか忘れて、そしてまた女の子に恋をして、成長して大人になって、結婚して、子供ができて、父親になって、幸せに包まれた時にふと、俺のことを思い出すのだろう。
ああ、そう言えばあんな人も居たなあ、と。
あんな風に泣いたこともあったなあ、と。
一時的な気の迷いで男と付き合ったけれど、それなりに楽しかったなあ、と。
そういって傍らにいる綺麗な奥さんと笑いあって、また俺のことなど忘れて日常に戻って、もう二度と思い出す事もないのだろう。
これで良かったんだ。
そう思いながらも俯き歩く。
親友の冷たい目を思い出して、心が冷える。
あんなふうに睨まれたのも、怒鳴られたのも初めてだった。そしてもう二度とないのだろう。
ゲイである俺を本当に理解してくれていたのは身を持って分かっている。偏見の目で見てくる人や陰口を言う連中を何度も追い払ってくれた。俺がいるから、と笑ってくれた。
ただ、身内に関係してくるとそれはまた別の話なのだろう。
俺が、弟に手を出して裏切ってしまったのがいけないんだ。
あんなふうに言われるのは、しょうがない。
俺が、いけないんだ。
あいつは何も悪くない。弟を守るために当然のことをしたまでで。
それは俺も分かってる。分かってるのに。
『お前が幸せなら、相手が男でも女でも関係ないだろ』
そういって微笑んだ親友の顔が浮かんだ。
胸が酷く締め付けられて、息が、できない。
人混みの中で、腕に顔を伏せしゃがみ込む。
視界が歪んで、涙がアスファルトにシミを作った。
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