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第6話
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そんな俺をチラリと見てあんたって昔から、と口を開く。
「あんたって昔からそうよね。そうやって無理に耐えようとする」
「別に。そんなつもりないけど」
「よく言うわよ。何時だって泣きそうなくせに」
「っ、俺は、」
そこまで言われると頭にくる。
耐えてるつもりはない、そう言いたかった。でも俺を見つめる澄んだ黒い目は何もかも見透かしているようで、ああ、俺はこの目には勝てないのだと自然と悟る。
「あたしね、…あんたに平手打ちされた日に、思ったのよ。ああ、こんなにあたしの事を心配してくれる人が居るのかって。だからその時決めたの。この人を大事にしよう。何があっても絶対に見方でいよう。この人を守ろうって思ったのよ。だからね、」
ひとつ呼吸をおいて、言う。
「だから、あんたが耐え症ならあたしがあんたのそれをとっぱらう。無理やりだっていい。バカ野郎って罵られたって平気。あんたのためならあたしは何者にでもなれる。悪者になったって構わない。あんたのためにできないことなんて、何一つないもの」
現にあたしはここにいるでしょ。
そう言う優子の目は冗談なんかじゃなく真剣で、どうしようもなく泣きそうになって顔を歪める。じわじわと熱いものがこみ上げてきて耐えきれずに涙が溢れた。なるほど、こういうとこか。
冷たくて気持ちの良い手が俺の手を包む。
「あたしね、」
「うん」
「あんたは幸せになればいいと思うのよ」
「っ…」
さらに追い討ちをかけて涙が溢れる。優子は俺がずっと望んでいた言葉をくれた。欲しくて欲しくて仕方なかったけれど誰も言ってくれなかった言葉をいとも簡単にさらりと言ってのけた。
こんなに子供見たく泣いたのは何時ぶりだろうか。
細くて小さな手をぎゅう、と握り締める。
これほど冷たい手を暖かいと思ったことはなかった。
夜が深くなって、もう既に辺りは暗闇に包まれている。
「来てくれて、ありがとう」
嗚咽混じりに言う。優子は号泣する俺を見てどこか満足そうに笑う。
俺も笑った。泣きながら笑った。
握る手が少しずつ夜に溶けていくのを感じながら。
静かな公園のベンチ、一人座る俺を暗闇が包み込む。
そして君は夜になった。
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