アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第8話
-
それから毎日通い続けた。
あれから何週間経っただろう。
決まって親友が一番最初に帰ってきて、声を掛けても立ち止まってくれたのは最初だけで、それからは一度も振り向くことさえしてくれない。
今日も待つ。我ながらストーカー並みの執念だと思う。
ポツポツ、と頭に何かが当たる。
見上げれば雨が振り落ちてきた。
次第に雨足が強くなっていく。
「頼むから、もう帰ってくれよ」
気が付けば土砂降りだった。
目の前に立つ親友は苦しそうな表情を片手で隠して言った。その顔は少しやつれて見えた。
「一樹に合わせて欲しい」
目が合って、逸らされた。
「今は叔母さんの家に預けてる。ここには居ないから、頼むからもう帰ってくれ。もう、来ないでくれ」
そう言って、親友のさしていた傘を、渡された。もう服も髪もびしょ濡れで、意味は成さない。
親友はそれ以上何も言わず、ただ横を通り過ぎていく。
高校生の時から6年間ずっと一緒にいて、言いたいことはそれだけなのか。アスファルトを打ち付ける雨の音が、やけに大きく聞こえた。
そうして、親友が玄関に手を伸ばそうとした時だった。
俺のよく知った、酷く懐かしい声が聞こえたのは。
「裕之さん……っ!」
雨の音なんて聞こえないくらい、その声はハッキリと俺の鼓膜を揺らした。
「かずき……」
一樹の手からはらり、と傘が落ちる。
驚いて立ち上がる俺に、たまらなそうに顔を歪めて、濡れるのも気にせずに駆け寄ってぎゅう、と抱きついた。
俺もそれに抱きしめ返すと、背中にまわる腕にさらに力がこめられる。冷えた体に一樹の体温が伝わってきて泣きそうになった。
「会いたかった、一樹。……ずっと待ってた」
「俺もだよ、裕之さんのバカ」
俺を振ったりなんかして。そう言ってバカ、バカと何度も繰り返す。途中でぐすん、とすすり泣く声が聞こえて、また泣かせてしまったなと胸が締め付けられる。
「ごめんな。俺、ほんとバカだった」
そう言って腕を緩め、顔を合わせる。綺麗な瞳から零れる涙をそっと親指の腹で拭った。
優子は、俺に大事なことを教えてくれた。
揺るぎない確かなもの。
それは何よりも強いと言う事を彼女は教えてくれた。
「世間体とか常識とか、考えるのはもう辞めた。周りなんかどうだっていい。俺は一樹の為なら何者にでもなれるよ。悪者になったって構わない。一樹を、愛してる」
愛してる、自然とその言葉が出てきた。
腕の中の温もり。首筋の匂い。酷く懐かしく感じるそれらを離さまいと、強く抱きしめた。
愛しいもの。それは確かなもの。
「俺も大好き。愛してる、裕之さん」
顔を上げて、一樹は嬉しそうにふわりと笑った。高校生のくせに、恥ずかしげもなく愛してるという言葉をするりと囁く和樹に面食らう。
一樹は俺が思っているよりもなかなか大した男なのかもしれない。
驚く俺をみて、子どものように笑う。
なんだか照れくさくなって、顔を隠すついでにぎゅう、と強く抱きしめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 9