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最終話
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「……お前ら俺のこと忘れてないか」
呆れた様なその声に、一樹の肩が僅かにびく、と反応した。
「何でここに来た。叔母さんちに帰るはずだろ」
厳しい口調と一緒に眉間に皺を寄せた目で一樹を睨む。それに負けじと一樹も強い意志を持った目を親友に向ける。
「友達に、聞いたんだ。俺んちの前に毎日同じ人が座ってるって。雨の日も、濡れたまんまで座ってずっと待ってるから、何かあったのかって心配して教えてくれたんだ。それで、絶対裕之さんだって思った。そう思ったら、じっとなんてしてられなかった」
一樹はもう一度俺をじっと見上げて愛おしそうに細い指を優しく俺の髪に絡ませて撫でる。心地よくて、それに応えるように目を細めて微笑んだ。
大好きだ。この瞳も、この手も、全て。もう二度と手放したりしなんかするもんか。そう固く心に誓った。
「俺、裕之さんのこと諦める気ないから。兄ちゃんに何言われても、もう他の人を好きになったりなんかしない。ていうか、なれない。俺には、裕之さん以外ありえないから」
それは俺に向けて掛けられた言葉であり、親友への牽制の意味で言った言葉でもあるだろう。
「お前……」
何か言いかけて、口を噤む。暫く俯き沈黙する。何か考えるような仕草に、俺も一樹も親友の言葉を神妙な面持ちで待つ。
再び口を開いて吐き出された言葉は、酷く小さかった。
「もう、わかった。…………好きにしろ」
ため息混じりではあったけれど、それは確かに俺達を肯定する言葉だった。
一樹は予想もしていなかったかのか、驚きに口をポカンと開けたまま自分の兄を見つめている。
俺は、彼がどれだけ弟思いかを知っている。自分の弟の一番の幸せを願っているからこそ、苦労はして欲しくないと今まで俺という男と付き合うことを反対してきたのだろう。
でも、今はその幸せを考えを考えたからこそ、俺と一樹が付き合うことを認めてくれた。
「後は、お前に任せる」
それはたぶん、一樹たちの親に言う事や、一樹の人生そのものを言っているんだろう。
「……うん。ありがとう」
俺を見る親友の目は、優しかった。随分久しぶりにそんな目を向けられた気がする。親友が再び俺を受け入れ、信じてくれたことに心の隅にあった罪悪感が解けてゆく。思わず、視界が滲んだ。
それから親友は自分の弟へ声を掛ける。
「一樹」
「……兄ちゃん」
名前を呼ばれ、やっと状況を理解した一樹はしっかりと兄へ向き直った。
「お前が自分で決めた事だぞ」
「分かってるよ、ちゃんと」
これは気の迷いでも、流された感情でもない。そう宣言するようにはっきりと答えた。
「そうだな」
一樹の言葉に、親友はずっと強ばらせていた表情を緩めて微笑む。
『お前が幸せなら、相手が男でも女でも関係ないだろ』
そう言って俺に微笑んでくれた時のように、とびきり優しい笑みで、俺と一樹を包み込んでくれるんだ。
「……取り敢えず入れ。裕之、お前も突っ立ってないで入れよ」
玄関を開けて顎で入るように促す。
一樹が、俺の手を引いてにっこりと笑う。
「おいで、裕之さん」
俺はこの笑顔の為なら、何だって出来るだろう。
なあ、優子。俺は、今、幸せだよ。
きっとこれから幾つも試練があるだろう。それでも俺は、絶対に逃げない。絶対に、この確かな気持ちを心に抱いて誓おう。
俺は一生をかけて、一樹を愛そう。
いつだって全力で、俺の魂の全てを掛けよう。
優子が俺にそうしてくれたように。
きっと、それ以上に。
君はあの日夜になった。けれど、君は俺の心にずっといる。俺の一部になって、今の俺を作ってくれているんだ。
「お前ら、まずは風呂だ!」
びしょ濡れの俺と一樹を見て親友が一言そういった。俺も一樹も、びしょ濡れのお互いを見て込み上げる笑いをこらえ切れずに口を開けて笑った。
優子、俺達は今、最高に幸せだよ。
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