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蜜月 5
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バタバタと音をたてて、隣の部屋から人が出てきた。
……いつも、こんな時に現れるのは、………そう、決まってお兄ちゃんだ。
……あぁ…どこまでも……何で…………俺に何をしたの……
「あああ、大丈夫、こうちゃん? どこかぶつけた?」
お兄ちゃんがテーブルの上のガラス細工には目もくれず、俺に駆け寄る。近づいたお兄ちゃんから焦げ臭いニオイがした。ツンとした刺激に、俺は鼻を押さえて後ずさる。
「あぁ、ごめんね。ちょっと燃やしものをしてたんだ。火事じゃないから安心して」
そう言って笑った顔は、いつものお兄ちゃんの温顔で……。
何もかも混乱した。知らない家、女の子の服。
「…………ここどこ? ナツは?」
「……こうちゃん、ここにナツ君はいない。もう、謝らなくてもいいからね」
お兄ちゃんの耳を疑うような言葉。
「何で!? お兄ちゃんだって言ったじゃん、早い方がいいって! ナツのとこに帰して! 仲直りしなくちゃいけないのに!」
「ナツ君のことは忘れよう? ナツ君じゃ、こうちゃんの気持ちは分からないよ」
……違う! ナツの気持ちを踏みにじったのは俺だ。何でお兄ちゃんがそんなこと言うの?
おまえに何が分かるんだよ! ナツは俺を充分に理解して、付き合ってくれたのに!
「分かってないのはお兄ちゃんだよ! ナツに会わせてっ! ナツに会いたい!」
言ってるそばから、涙がポロポロと溢れ落ちてきた。ナツを悪く言われたことが、勝手に俺を連れ出したことが許せなくて、それまで溜めていた感情が爆発した。
「こんなとこ、お父さんとお母さんもいないじゃん! おるちゃんは!? 翼は!?」
お兄ちゃんは、苦虫を噛み潰したような顔をして、俺を見ている。お兄ちゃんの正義は、俺の言っていることが、理解できないのだろう。
「あの人達にこうちゃんは守れない。僕だけだよ、片桐から守れるのは」
「片桐なんてどうでもいいよっ! 俺を家に帰して! 俺の服も返してっ!」
「今、着てるじゃないか。よく似合ってるよ」
「お兄ちゃんっ!」
全く噛み合わない会話に、俺は最後の雄叫びを上げ、顔を伏せた。言い終わっても、熱い涙がポロポロと溢れてくる。
「こうちゃん、落ち着いて。急なことで吃驚して、気が立ってるんだよ。きちんと冷静に考えてごらん? こうちゃんはとても賢いから分かるよね? こうちゃんが危ない目に遭ってるのを、知ってるのは僕だけなんだから」
お兄ちゃんの静かな諭すような声が、頭の上から降ってきた。
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