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変わったところ
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スクールバッグを背中にわざわざリュックみたいに担いでスニーカーを履きのたのたと玄関を後にする。
ちょっと変だっかなと先ほどの去り際のことばを思い出す。まぁ…久しぶりだし気にしないか。
ズボンのポケットに片手をツッコミ大きなあくびを洩らした。
「お前不良みたいだな」
後ろから呆れた声がかかる。この声は
「綿貫…俺は不良じゃない。髪も染めてないからな」
自分の黒髪を指差し不服そうに答えればそーかそーかと子供を相手にするような返しをされてしまった。
「今日部活は?」
「今日は休み。部室寄って来たから遅くなった」
横に並んで歩く綿貫は持っている重そうなエナメルのバッグを揺らしてみせた。
「お前こそこんな遅くまで何してんだ?」
「部活探し」
「ああ、まだ決めてないんだっけな」
「一応決めたけど…」
決めた、と口をもごもごとさせ小さな声でいえば、綿貫はへぇ、と声を漏らした。
「何部?」
やっぱり聞くよな…
「 び……美術部」
「ぶはっ」
尻すぼみになる声で目をそらし言うと案の定綿貫は吹くようにして笑った。
案外失礼だと思う。
「意外だなぁ…へぇ…美術部…絵描けるのか」
「はぁ?描けるわ!多少は…」
多分…猫くらいなら…
ポケット手を突っ込んで綿貫は目を伏せにやにやと笑いながら横を歩く。こいつ描けないっておもってるな。
「そういや小田と話してたよな、いつの間に知り合ったんだよ」
突然の話題転換。小田はしゅうのことだ。
「あいつとは小さい頃遊んだ事あるんだ」
「なるほどな、顔見るまで気づかなかったとは」
「小学生の頃だからな〜、あんなもやしみてぇに縦に伸びてるとは想像つかなかったわ」
変わるもんだな、と綿貫の呟きが耳に残った。
歳相応に顔つきは大人になっていたが俺からしたら身長しか変わった感じしなかった。ひょろりとした見た目とそばかすが昔を思わせた。
もうチビのあいつじゃないんだな。 いつも俺の後ろにいたちっこいアイツ。
俺と同じ位にまで成長しやがって。
ちょっとイラッとして頭をがしがしとかけば綿貫に怪訝そうに見られたのだった。
────────────────────────
「おい、滝壺。小田が呼んでる」
便所に行ってた綿貫が戻ってくるなりドアの方を指で指している。
それは次の日の昼飯を食ったあとのことだった。
パックのカフェオレを飲みながらスマホでぼんやりネットサーフィンをしていた俺は携帯から顔を上げた。
「え、しゅうが?」
無駄にでかい体の後ろをちらりと見たら廊下で壁に寄りかかって携帯を眺めるしゅうが見えた。相変わらずパーカーのフードは深く目元まで被さっていた。マスクはしてないようで鼻先に散りばめられたソバカスが見える。
「いるっていっちまったよな?」
「当然」
えー、いないフリとかして欲しかった。
なかなか行かずにウロウロしている俺を綿貫は一喝して背中をバシりと叩いた。
「喧嘩でもしたのか知らんがチャッチャっといけ。邪魔」
なかなか寂しい事言ってくれるね…綿貫をちらちら何度も見返すが俺の机で頬杖を着いて真顔のまま手でしっしっと追い払うように急かされた。
渋々廊下に出るともわっと暑さが増す。
「えーと…小田なんか用?」
携帯をいじっているしゅうにおずおずと声をかける。
こんな暑い中汗を一滴もかかずにしゅうは驚いたという顔をして携帯をすっとパーカーにしまった。
「なんで苗字?前みたいにしゅうで良いのに」
なぜ?と言うふうに頭に疑問符を浮かべているのが良くわかる。
「なんか久しぶりだし…こっちのがいいかと思っちまった」
小田の方が呼びやすい気もした。
「なんか距離感じるからしゅうでいい」
パーカーの首元をきゅっと締めてこちらを見据えるしゅう。
「りょーかい、で呼んだってことは何か俺に用があったんだよな」
透き通った瞳に見据えられなんだか気恥ずかしくなり首をポリポリとかいて用件を聞こうと急かした。
「ああ、うん。でも、ここだと敦輝くん暑いでしょ。場所かえるから着いてきて」
そういうやいなやスタスタと先を歩き出すしゅう。
確かに暑いけど教室でよくね?
「どこ行くつもりなんだ?」
「三棟だよ」
歩くだけでもじんわり汗がにじむ。わざわざ三棟に行ってまで話す内容とはこれいかに。
階段を降り一棟を離れる。やっぱり購買のとこ以外は暑いからか全然廊下に人がいない。
「敦輝くんは昔のまんまだね、人懐っこい雰囲気とか変わってないや」
「そうか〜?」
ぐだぐだと喋りながら三棟の3階までくると流石に汗が伝った。
歩くだけでアチい…
「あ、ここ最近お前歩いてたよな、放課後」
ふと見覚えがあると思い何気無く言う。
俺が放課後に坂道からしゅうを見つけた場所だ。こんな三棟の隅っこで何をしてたんだか。
何も答えずに三棟の一番奥の部屋の古く錆びた鍵をしゅうは慣れた手つきで開けた。
勝手に入っていいんだろうか?
しゅうが鍵を開け重い扉をガラリと開けると涼しい風が吹き抜けた。
「……ん、魚?」
入るとその涼しい小さな空間には水槽がいくつも置かれていた。
そこには悠々と泳ぐ魚が沢山。
「魚部」
しゅうはそういうと魚を眺める俺の後ろでドアを閉めて鍵を横の棚に置いてあった小さなバスケットにいれた。
「え、部活で魚を飼うのか」
そんな部活あったんかい。 三棟の一番端っこなんて想定外。
窓際の黒いカーテンの内側や壁に寄せられた机の上には水槽が並べられている。
部屋の真ん中に長机が二つ合わせられ椅子が四つ配置されている、その一つのパイプ椅子にしゅうが座った。
長机の上には小さな水槽が一つ乗っていた。金魚だ。
「とりあえず座って」
窓際の魚を眺めていた俺をしゅうが手招きして呼ぶ。
促されるまましゅうと向き合うように座った。
「話なんだけど…文化系入るなら魚部入らない?」
もごもごと話だしそばかすをパーカーで隠れた指で擦る。 癖、治ってないんだな。 とぼんやり考えていたら
「どう?」
なんてこちらを心配そうにしゅうが窺っていた。
「俺美術部入るから、ちと無理だわ」
すっぱり断った。うん。出来たらあんまり一緒はやだ。
美術部入るのは嘘じゃないし。でもやっぱ俺が絵を描くなんて想像できないんだろうな。
案の定しゅうは目を瞬かせて口を少し開いていた。
「え、美術部?敦輝くん絵描けたんだ」
純粋に思ったんだろうけどそんなに絵が描けなそうな顔してますかね、俺。
「まぁな、ちょちょいのちょいよ」
ドヤ顔で人差し指を立てて顔の前で振って見せれば眉をほんの少しひそめたように見えたと思えば納得のいかなそうな顔。 少しなにかを考えるように目線を横に泳がせたしゅうがパッとこちらを見る。
「入部届けだした?」
「いや、これから」
これから、というとふむふむと小さく頷き
「じゃあ魚部はいろ」
「は?なんで?」
淡々と魚部への勧誘をするしゅうに焦りを隠せず間抜けな声を出してしまう。
「まだ届け出してないんでしょ?美術部よりも幽霊部員になりやすいよ、ここ」
なぜバレている…!?
「いやいや、俺は真面目に絵を描きたくて…」
熱意を伝えるしかない…か?
「魚部嫌?幽霊なれちゃうけど参加は自由だし」
「嫌じゃないけど…絵が描きたいなー…と」
まっすぐ見つめてくる瞳から逃げるように斜め前に置かれた水槽の中を悠々と泳ぐ金魚を見つめる。
「じゃあ勝負しよう」
「ほ?」
俺と同じように金魚を見つめていたしゅうから唐突な提案。 勝負…?
「なにかで三回勝負しよう、で俺が勝ったら魚部入ってほしい」
「何かって…あ、俺決めていい?」
勝負の内容を決めてないとわかった瞬間勝負内容を俺が決めることさえ出来れば負けないのでは、と思いすぐさま決めさせろという視線を送る。負けなきゃ入らなくていいんだな。
「……いいよ、暴力とかはやめてね」
少し間を空けて許可がおりた。
「流石にやらねーよ、腕相撲とかどうよ」
腕相撲なら負ける気がしない、断るなよしゅう。
じっとパーカーで口を隠すしゅうからの返事を待つ。
「わかった、腕相撲でいいよ」
まじか!!
つまり俺が二回勝てば魚部には入らなくていい。
どうみてもひょろひょろの見た目、OKしてくれたのはもしかして相当俺が嫌そうな顔してたからか?それとも実は怪力だったりするのだろうか?
「ほいじゃ1回戦やりますか」
しゅうはそういうとパーカーの袖を少し捲し上げる。
昔とは違うゴツゴツと骨張った大きな手が覗いた。
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