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掴んだぬくもり
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八雲が熱を出した日から数日がたった。
その日から俺は八雲に対して対応が変わっていた。
「キライなら優しくすんな…」
実は起きてたとか言えない。
弱々しく八雲がそう呟いたのを聞いた俺は少し前から目覚めていたが目をつぶったまま取り敢えず狸寝入りを決め込んでいた。
そろりと目を開けてそいつを見れば手の甲で目を覆ったまますぅすぅと寝息を立てていたのだった。
もしかして俺の行動で傷付いてんのか?風邪で心も弱ってんのか?
いつもからは想像つかない弱々しさに俺はひどく動揺した。
寝息を立てる八雲のことを考える。
恋愛対象として俺を見ているこいつにとって俺の反応は苦しめるだけなのか?
その気がないのに中途半端に構ってしまった俺のせいなのだろうか。
だとしたら俺は……。
────────────────────────
「ヒーローおはよ、今日もお昼一緒に食べよ」
「はよ…無理」
二言で返せば、驚きを隠せない顔がこちらを見る。
次の日から八雲に絡まれたらキッパリと断るようにした。
最初はちょろちょろまわりでちょっかいを出していたが暴言も控え静かに対応した。
寂しそうな顔をしている気がする八雲を見ると少し心が痛む気がしなくもなかった。
アイツの為だと自分の心に言い聞かせた。下手に気を持たせたら後で後悔すんのは八雲だ。
暫く八雲を遠ざけ続けると八雲は俺の前に現れなくなった。
勿論校内で見かける時はたまにあるけれど眼中に無い感じだ。結構ムカついた。
これで良かったんだよな?
ひとり屋上前の踊り場で考える。
俺は男が好きじゃない。だから八雲のこともなんとも思っていない訳だが。
八雲からすれば相手にされたらされるだけ可能性を考えてしまうのかもしれない。
八雲と昼を過ごさなくなってから昼の時間が長いような気がする。
気の所為だとおもいたい…
多分あれだ、まわりでずっとうるさく飛び回るハエが突然消えて余計に静けさを感じるやつだ。
うぇっくしっ………
しんと静まり返った校内に自分のくしゃみが響いた。
夏が終わりを告げ肌寒さを感じる今日此頃。
あー…帰ろうかな。暇だわ。
教室に戻り午後の授業を確認しリュックを取って玄関に向かう。
その途中廊下の向こうをグループで歩く固まりに八雲を見つけた。茶色のカーディガンをきてるそいつは友人と笑い合っている。
あ、目が合った。
流し目でこちらをみたと思えばふっと逸らした。
あ、むかつく。
俺がこうなるようにしたんだけども。
だからいいけどなんかこう、むかつくわ、やっぱ。
さっさと靴を履き替え学校を後にする。
イヤフォンで周りの音をかき消して学校付近の階段を降りる。まだ、昼間なこともあって学校の近くには人がいない。
早退すんのは俺ぐらいだろうな
あいつ思い出したらムカついてきたわ。チョコでも食って糖分補うか。
小さなチョコを取り出して包みから出そうとした時だった。
ゴツッ
頭に強い衝撃。
一瞬暗転した世界。フラッシュする。鈍く痛む頭。
後ろを振り返ろうとした瞬間思いっきり背中を
どんっ
意味わからん。何でこんな一斉攻撃受けてんの?
頭痛いし。
急な階段を転げ落ちながらそんなことを考えていた。
俺は誰かから絶大な恨みを買ってたのね。まぁ、でも買ってても仕方ないと思っている自分がいるわけだが。
下まで見事に落ちていった俺は痛む頭をもたげて階段の上を見る。
霞む視界に丁度太陽の光で影になり顔が見えないが四人ほど人が見える。
「やばくないか?」
「こんなんじゃこいつ死なねーだろ」
「~……かもしれ….だ」
何ほざいてんだあいつら。殴りに行きたいが体が動かない。薄れそうな意識を無理やり引き戻しもう1度体に力を入れる。
あちこち痛む体は震えるだけで動いてはくれない。
つうっと頬を何かが伝う。
「なぁ…!やばいって」
上から焦った声が聞こえ、垂れたものを見れば血だった。
まじかい。おいおい。額が切れたのか?
流石にやばいと自分も思い痛む体にムチを打ってゆるゆると立ち上がり階段上を見上げれば既に人はいなくなっていた。
犯罪じゃん…
足首がズキッと痛みがくんと膝をつく。
「はぁ………最悪かよ」
思わず声を漏らしていまだ痛む頭を抑える。
「あら、大丈夫??どうしたの?」
驚いた声でこちらに駆け寄ってくる人影がみえた。
「真紘君じゃない!」
それはこの辺に住む婆さんだった。
何度か話したことがある面識のある人だこの人に頼もう。
「あの、ヤエさん救急車呼んでもらえますか」
「分かったけどその傷は?何があったの?」
「階段から落ちました….」
さらに深く聞こうとしてくるヤエ婆さんに電話を促しホット一息ついた。
頭がぐわんぐわんする。むり。意識飛びそう。
「………町……高校の近くの…」
遠のく意識の中でヤエ婆さんの焦った声だけが耳に残った。
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