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告解室
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アウトサイド(?視点)
俺は愛人の子として生まれた。打算的な金が好きな母親の元、認知前提で産み出され、思惑通りまんまと認知されたはいいが本妻の圧力か過労か。
ホステスをしていた母は簡単に死んだ。
不憫に思った父親に引き取られたはいいが、ソコで待って居たのは徹底的な差別。事にして、先にいた異母兄がらみであると義母は尚更であった。
兄より良い成績を取ったと言っては叩かれ、兄よりリレーの順位が早かったと言っては飯抜きにされた。
不憫に思ってか父が俺には、こっそり菓子や玩具を与えたのがさらに義母の怒りを買ったらしい。もらっている所を見られれば、ソコからすぐに夫婦喧嘩に発展した。
可哀想だから
母がいないから優しくしてやれ
悪いのは俺だから
父はそればかりを母にいい、母は最後まで父を責めた。
兄はのほほんとした、豆腐のようなつかみ所のない男だ。
金持ちだからか甘やかされ物欲はない。優しくはあったが、それは王さまの優しさだ。寛大だが、ソコには無関心だからと言うのもあるのだ。
俺がいいなと言えば、直ぐにくれたが、一つだけ俺には触らせもくれもしない巾着袋があった。いつも首からぶら下げていて絶対に誰にも触らせなかった。
高そうな巾着袋で、小さなものだったが俺は欲しくて欲しくてしかたなかった。アレは俺が14歳、兄が15歳だったと思う。
俺は既に、兄の学年の勉強をしていた。兄より秀でたい。兄に比べられず、将来組を背負う人間になる。あの時の俺はガムシャラでバカでガキだったと思う。
兄がインフルエンザにかかった時、体を拭くために母が服やらを置いている中に巾着があった。
チャンスと思って俺は盗むとこっそり中を見た。
中には白い小さな石と、安っぽいリング。
がっかりした。と同時に兄に心底同情した。こんなつまらない物を大事にしている兄を、ちっぽけな男だと思った。
返そうかと思ったがイタズラ心が沸き、俺はソレを近くの川に捨てに行った。悪いとは思わなかったし、別に無くても困らないだろう。
逆にこんなものを後生大事にもっているのはバカらしいと、途中で気付かせてやっただけ感謝してもらいたい。
しかし帰ると兄が待っていて、巾着を返せと言ってきた。ムカついてムキになって言わなかったが、珍しく兄はキレ俺の胸ぐらを掴んで、吠えるように場所を問いただした。近くの川に捨てた。言った瞬間見えたのは、絶望的な兄の表情と天井だった。
兄は飛び出し、見付かったのは朝だった。朝、必死の捜索のすえ、巾着袋を強く握り締めた形で川の水辺で、息絶え絶えで見付かった。
体は冷えきり、高熱を出すと、兄は意識不明に陥り三日三晩生死の境をさ迷った。
俺は義母に責められ、父に励まされ、内心酷く自分を責めていた。ほっておけば良かった。あんな巾着なんか無くてもあっても、俺のが優秀だ。俺のが……
「……あの子が呼んでるわよ。あの子は優しいからって、付け上がらない事ね。」
病室にはいると目を開いた兄がいた。窶れては居たが、普通に座りヘラリと此方を見て笑う。
「侑雅。ごめんね~。俺、俺。ずっと…ずっと話せなくて。こ、これ。これお前の母さん。」
「母さん…?つか兄さん話し方が…」
俺が医者を呼んだ事により発覚したのは。高熱により、脳にインフルエンザの菌が入ってしまったこと。その為、何らかの障害をきたして仕舞ってしまったかもしれないということ。そのせいで、言語障害や多少の知恵遅れの様になって仕舞うことだ。
それよりショックだったのは
兄は、俺の母と、形見を大事にもっていたことだ。
俺は母の葬式には出席出来ず、骨は母の実家で供養された。リングは父から母に渡された物で、形見として父に返されたが、母に見つかり捨てられたのを見つけ、拾ったそうだ。
「だからさ~きちんとお前がおっきくなって、供養出来るようになったら、お母さんのお墓立てられるからね。そしたら渡そうと思ったんだあ。お、俺こっそり骨…骨盗んだんだよ。ふひひ。怖かった。俺がもってたらお母さんい、いつもお前の側に要られるし…」
兄は照れた様に笑いながら、俺の首に巾着をかけてくれた。
兄が優しかったのは王様何かじゃなかった。無関心でもなかった。俺に遠慮させないように。本当に愛してくれてたからだったんだ。
そして俺が巾着が欲しかったのは。
俺が兄の一番になりたかったからだ。身寄りが父しかいない俺に、兄は何時も然り気無く笑って、側にいて。俺を立てて俺を誉めて俺を…
きちんと家族として扱って。
母にも敬意を払っていてくれた。
俺はこの瞬間から、兄を守り一生尽くそうと決めた。
だから父が亡くなる前に引退し、俺を後釜にと言った瞬間。あんなに欲しかった組が、ゴミに思えた。ようやく上に立てた地位なのに。努力もしたのに。
そこに立たねばならない相応しい人間を俺は…
しかし背中を押してくれたのもやはり兄だった。
襲名前日。俺は断ろうと腹をくくった。どんなに半殺しにあおうが、指を摘めさせられようが俺が着いていくと決めたのは兄貴だ。
俺が言えた事ではないが…、兄は勉学ではなく、人として頭の良い人間で人をよく見て…慈悲深い。組長の器はそれほどでかくなくてはならない。
廊下を滑るように、父の部屋に向かう途中兄に声をかけられた。
「兄ちゃん。こ、これから龍治が兄ちゃんになんだよね、ね。兄ちゃんは、頭、昔からいいから。ぜ、絶対いい兄ちゃんになれるよ。」
「兄さん…」
すると照れたように兄は笑った。
「兄ちゃんが二人いたらや、ややこしいから。お、俺は怜でいいよ。」
「いや、兄さん…俺は…」
「怜。」
「兄さん…」
「…………」
「怜…さん。」
「怜でいいよ?お、俺兄ちゃんいないからうれ、うれし。に、兄ちゃん老けてみえっから…あ、甘えられる」
怜はふにゃりと笑って俺も笑った。
結局俺はまだ若いため、叔父が組を継ぎ、俺は直ぐ下できちんと襲名できるようになるまで働く事になった。もちろん怜もだ。
親父と似てるからか、柄の悪くガタイがよい俺は、義母に似た怜より老けて見えているが……怜は未だに俺を兄貴とは言わない。これは怜の小さな最初で最後の抵抗かもしれない。
これが俺の懺悔だ。
END
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