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夏休みのパーティー
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「らっくーん、コーヒーここ置いておくよ〜」
「さんきゅ〜兄貴〜」
クーラーがついているにも関わらず「あづぅい…」とへばる四男、楽に長男の里冉はやたら甘い。たった今机に置いた砂糖たっぷりのコーヒーといい勝負なほど。
夏休みだというのに、今日は兄弟全員がリビングに揃ってクーラーに縋り付いていた。
次男の白も暑さに負けて楽と共に撃沈している。三男の英樹はテレビゲームに夢中だ。そして五男の樹だけは課題をしている。
樹と楽は双子だが、こう見ると全く似ていない。
「君たち課題大丈夫なの?樹しかしてるとこ見ないんだけど」
里冉が食器を拭きながら怠けている弟達に聞く。
唯一この中で学生ではない長男は家事に忙しい。夏休みでなくてもずっとそうなのだが。
「俺もうほとんど終わった」
「さっすが白。あとの2人は……手つけてすらなさそうだね?」
「すみません」
「手はつけたもん!…多分」
「あやふや……本当に大丈夫?」
「だーいじょーぶ!樹に見せてもらうし」
「見せないよ」
「うえぇーー!いいじゃん見せるくらいーー!」
「誰が見せるかバカ楽」
「バカじゃねーもん!!」
「じゃあご自分でやってどうぞ」
「むぅぅ……」
他力本願にも程があるだろう、と思いつつ膨れた楽の顔が可愛くてふふっと笑いを漏らす。
みーせーてーよぉーと樹の腰にしがみついた楽が「やめろそこ触るな気持ち悪い」と酷い言われようで蹴られているのを横目に、拭き終わった食器を棚にしまった。
休みの日でもこの時間に兄弟が揃うことが珍しいため、なんだかご機嫌な里冉。
反対に、反抗期真っ只中の樹は心底鬱陶しそうにしている。それでも黙々と課題を進めているので、相変わらず真面目だなぁとほっこり。
「兄貴ぃ〜〜」
「ん?なぁにらっくん」
「暇」
「課題しなよ」
「やーだぁーーつか樹と同じこと言ってる」
「え、そうなの」
「……さっき同じこと言った」
「流石兄弟〜」
「アンタもな」
「なぁー暇ぁー」
「暇かぁ〜うーん」
里冉は家事が一段落したのでキッチンを離れ、楽の隣へと移動した。定位置である。
「暇ぁ!」
「コーヒー残ってるよ」
「ほんとだ」
忘れられていたらしい、ほとんど残っているコーヒーに楽が手を伸ばす。
グラスの中の氷がカラン、と軽快な音を鳴らした。それを見ていた里冉が声を上げる。
「あ、」
「お?」
「思い出した」
「何を?」
「ふふふ、ねぇらっくん、イイコト…しよっか」
「お、おう……?」
わざとであろう意味深な言い方をして、再びキッチンへと戻る里冉。
そして、ガタガタッと大きめの音が聞こえた後、何かを手にすぐ戻ってきた。
じゃーん!とそれを机に置くと、思った通り食いついてくる弟達。
「この前見つけて買ってみたのです♪」
「これはもしや…」
「かき氷機…!!」
「冉兄…!!」
「ふっふっふ、氷とシロップもちゃんと用意してあるよ〜」
「冉兄ぃぃ……!!!」
弟達の良い反応にしたり顔な里冉がかき氷の準備を進める。さっきまでもう少しで床と同化するのではないか?というくらいだらけていた楽が急に元気になり、食器やシロップを運ぶのを手伝い始めた。
樹が仕方ないなぁ、と言いつつ満更でもなさそうに机の上を片付け、白がその空いたところを拭いていく。英樹はかき氷機に興味津々だ。
「冉兄冉兄、これどうやるの!?」
「この上に氷を入れて、こう…ぐるぐるって」
「ほうほう」
「力仕事だしとりあえず削るの英樹に任せていい?」
「りょーかーい!」
「俺もやりたーい!!」
「あとでね〜」
機械の上部分をぱこりと外し、中にアイスのカップを使って作っておいたサイズぴったりの氷を入れる。
そして外した上部分を戻し、少し回してかちりと固定し、下に深めの器をスタンバイさせ、ハンドルを回す。
「うおー!すげー!」
「ほんとにかき氷だ…」
「ふわふわしてる…」
「雪みたいだね」
「うおおおおお」
ガリガリガリガリと氷の削れる音を響かせながら英樹がハンドルを必死で回し、下の氷が山になったところで白がストップ、と声をかける。
5人分それを繰り返した。
「案外疲れるなこれ…!!」
「おつかれさま、英樹」
「次から俺がやるぅ!」
「はいはい、とりあえず溶けちゃうからはやくシロップ選んで食べちゃおう」
「はいっ俺いちごー!」
「レモン」
「俺もレモン」
「俺ねー、メロンー!」
「ん、了解」
「兄貴はどーすんだっ?」
「ふふ、俺はみぞれに…小豆!」
「うおおずりぃ!俺も小豆ぃ!!あっあと練乳!!」
「それはちょっと甘いんじゃない?」
「いーのっ!!」
「そっか、じゃあいっか」
「甘いな…」
「どっちが?」
「両方」
甘党の楽がいちご味に色々足していくのを楽しそうに見ている里冉、を呆れながら見つめる3人。
どっからどう見ても甘いだろ!なレベルのかき氷が出来上がったところで、皆で手を合わせていただきますをする。そうして一斉にカラフルでキラキラした氷を口に運んだ。
「〜〜っ!」
「楽が悶えてる…」
「美味しかったのか頭がキーンとしたのかどっちかわかんないな」
「うまぁ!」
「美味しかったリアクションだったらしい」
「甘ぁー!」
「だろうな」
「ふふふ、ついさっきまで死んでたとは思えない元気さだね」
「楽、ふっかーつ!」
「あははそりゃよかった」
シャクシャクと涼し気な氷の音と、笑い声が部屋を満たしていく。
ムードメーカーな四男が可愛くて仕方ない兄達が楽を構い倒しているのをよそに、1人黙々とレモン味のかき氷を食べ進める樹。
ほぼ無表情だが、美味しいのがオーラにダダ漏れている。そんな樹に気づいた白が「レモンうめーな!」と笑いかけると「まあ、不味くはないよね」とひねくれた返事が返ってきた。
「兄貴のちょっともーらいっ♪」
「じゃあらっくんのも……やめとこう」
「やめとけやめとけ、それは楽にしか食えない」
「んなことねーって!まあ兄貴には無理かもしんねーな」
「甘すぎるの得意じゃないからねぇ」
「んー!みぞれ小豆もうめーな!」
「次俺コーヒーとみぞれかけてみよっかな」
「なんだその変わり種!うまそーだな!」
「楽は食えたら全部うまいんでしょ」
「ちげーよっ!!」
「そういや抹茶シロップ作ってたんだ」
「作ったのか…流石冉兄」
「抹茶あんの!?じゃあ俺次抹茶小豆練乳!」
「練乳は外せないんだな」
「あったほうがうめーもん」
「白玉ないの?」
「白玉粉あった気がするからぱぱっと作ろうか?」
「おー!いいな白玉!!」
長男は楽だけじゃなく末の双子に甘いらしい。
長男の手によってどんどん豪華になるかき氷を想像して、楽がはわぁ…と幸せそうな声を漏らした。
「よしじゃあ作ってくるね」
「2杯目は白玉乗せない人〜」
「はーい」
「はーい!」
「バカップルーっと」
「ちっげぇよバカップル言うな」
「え、白兄と英兄はバカップルじゃねーの?」
「いや…まあ間違ってはないかもしれないけど…違うから!」
「白はバカじゃないからね!」
「そこじゃねえんだわバカ〜〜」
「…で、2杯目作るんでしょ。さっさとやるよ」
「おーう!」
そうして双子が連携してかき氷を作り始めた。
1杯は楽が削り、2杯目は樹に交代した。
どうやら樹も削るのをやってみたかったらしい。楽に文句を言いつつも、どこか楽しそうである。
「ちょっと、ちゃんと抑えててよ」
「はいはい樹姫の握力じゃあれっすもんね〜」
「うるさいよ姫じゃないし」
「へへ、いいからはやく回せって〜お客さんが待ちわびてるぞ」
「待ちわびてマース」
「はいはいすみませんねー!」
「はははっ」
白玉を丸めるのと茹でるのを同時進行しながら、里冉は「楽しそうだなぁ」と微笑ましい光景を眺めていた。
少しだけ疎外感は感じたがいつもの事なので気にしないことにしている。そもそも里冉以外が学生で、しかも同じ高校に通っている時点で疎外感は嫌でも感じるのだ。
「冉兄〜抹茶シロップ〜」
「あーはいはい、今手離せないから誰か取りに来てー」
「来た!どこ!」
「冷蔵庫の中。上の方にない?」
「うーーんと…あったぁ!」
「よかった、身長足りないかと」
「……このやろっ」
兄弟の中で一番小さいのを気にしている楽は、里冉の足を軽く蹴った。
一応これでも160近くはあるのだ。バカにしないでほしい。と思いつつ、180近い長男にはどう見てもチビにしか見えないんだろうなぁと思うと言い返せないのだ。
「ふふ、大丈夫、らっくんは小さいままが一番可愛いよ」
「うるせーっつの!もー!」
「あはは」
可愛いと言われても嬉しくない!と口では言っているが、実際のところはなんだかんだ嬉しい。そんな楽は少しだけ顔を赤くしながら「ばーかばーか!」と言い残してリビングに戻っていった。
「抹茶シロップお待ちぃ!」
「おー!きたきた」
「なーに客待たせてイチャついてんだよ」
「なっ、別にイチャついてなんか」
「そうだねまだマシなほうだよね」
「マシなほうって」
「ちゅーしてないだけマシだよ」
「お前俺らをなんだと思ってんだ」
「バカップル」
「ちげぇよそれは白兄達だろ」
「君たちも変わんないよ」
「えー…なにそれショック…」
「どういう意味かな楽さんよォ」
「うひゃーっごめんなさーいっ!」
失言をした楽が白と英樹による擽りの刑にあっている。うひゃひゃひゃと転げ回る楽をバカにして笑う樹。そして笑いすぎて涙目の楽。
白玉を茹で終わった里冉がリビングに戻ってきて、こらこら〜と止める……フリをしながら参戦した。
樹は、どんまいだな楽…と同情だけして止めようとはしない。
「ひーっもうやめ…あっちょ待っもー、やっ…あはっ、ふははっ、ひぃ」
「取り消すか?おん?取り消すか??」
「取り消す!取り消します!!ごめんなさ、い…っ」
「よし、じゃあ勘弁してやる」
「ありがとうございます」
「あはは、楽顔真っ赤」
「はぁ…はぁ……死ぬかと思った……」
「で、なんでらっくんは擽られてたの?」
「おま、知らずに参戦してきたのかよ…」
「楽しそうだったからつい」
「悪魔…」
「流石冉兄…」
「ついって…」
「ドS…」
「誰今ドSって言ったの」
樹が俺じゃない、と言うのと同時に他3人が一斉に樹を指さした。
「そっかぁ樹くぅん…お兄ちゃんがドSに見えるんだぁ……?」
「いや誰がどう見てもサドだと思……って何する気、やめっぎゃぁぁあ」
樹の悲鳴が響く中、英樹と白は少し溶けかけていたかき氷を食べ始めた。
「うんま」
「んー!夏!!って感じだね!」
「なー」
「助けろよバカ兄ぃぃい!!」
「自業自得だし、ねぇ?」
「さーてとっ、俺らのぶんも氷削りますかー」
「裏切り者ぉぉぉお!!」
「さっき助けなかったのはどこの誰ですかねぇ〜?」
「くっそおおおお!!」
珍しく声を張り上げる必死な樹が面白くて、笑う兄達。
しばらくして、解放された樹がゼェゼェ言いながらかき氷作りに加わった。
「酷い目にあった……」
「どんまい」
うるさいバカ楽…と聞こえた気がしたが、かき氷機のガリガリという音にかき消されたので聞こえなかったことにした。
「さて、お味はどうですか双子さん」
お店で出てくるような豪華なかき氷が並んでいる。
真っ先にかき込んだ楽が一番に声を上げた。
「うめぇー!!」
「ほんと楽って食レポ期待できないよね〜」
「だってうまいんだもん!」
「確かにそうだけどさ。もうちょっとほら、抹茶と小豆が流石とも言えるバツグンの相性を見せていて、爽やかな苦味がひんやりと舌の上で溶けたあと小豆の甘みがそれを追って〜………とかなんかないわけ」
「おおー、ナイス食レポありがとう」
「素直じゃないくせによくそういうのスラスラ出てくるよな樹」
「うるさいよ」
本人はボケのつもりだったのか、普通に関心されて予想外の反応に若干照れている。これだからウチは…と満更でもなさそうに呟いた。
「ふふふ、まぁ別に撮影でもなんでもないんだから」
「そうだぞっ」
「まぁね。でもほら……まいっか」
ふ、と樹は少し笑った。
「ところで、なんでかき氷機なんて急に買う気になったんだ?」
「ふふ、なんでだろうね」
君たちは覚えてないだろうなぁ、と言おうとしたが、なんとなくやめた。
『いつか皆でかき氷パーティー、したいね。頼んだよお兄ちゃん』
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