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幸せのお裾分け
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「あーにーきーっ!」
「らっくん!」
外にも関わらずわぁっと飛びついてくるかわいい四男を笑顔で受け止め、里冉は楽の髪をくしゃりと撫でる。
「えへへー買い物帰り?」
「ううん、ちょっと用事で出てただけ。買い物は一回帰ってから行こうかなって」
「そっか。へへっ、お供しますぜ」
「今日なんか乗り気だね?ふふ、頼むよ」
学校帰りの兄弟と会うことは珍しくないが、楽1人と会うことがなかなか無いため、里冉はいやでも嬉しくなってしまう。
人気者の楽の周りにはいつも人がいるし、家にいてもそれは同じで、2人きりの時間なんて作ろうと思わなければできないから尚更だ。
たまにはこうして些細な時間だけでも独り占めしていないと、そのうち体の内側から何かが爆発する気がしている里冉がいる。何かが何なのかは里冉本人にもよくわからないが。
「学校どうだったー?」
「んー、いつも通りだよ」
「あれ?そういや樹は?」
「委員会かなんかで残んなきゃなんだってさー大変だよな優等生」
「はは、それで先帰ってたんだ」
「おう。待ってるって言ったら「帰っていいって言ってんじゃん」って冷たく言われて…」
「樹に感謝しなきゃ…」
「なんか言った?」
「こっちの話〜」
そう言ってとりあえず心の中で樹に向かって拝んだ里冉だった。
「あ、そうだ、また告白されたりはしてないの?」
「いや…んな兄貴じゃねえし…そんな毎日されてたら俺流石に告ハラ?でカウンセラーのとこ転がり込んでる」
「ふふっ、そんなに嫌なんだ」
「だって興味もないやつからの好意って結構キツくね?しかも振る方が悪いっつーか、なんか俺が罪悪感感じなきゃいけないのが謎っつーか…」
「わかる〜なんでこっちが良心痛めなきゃいけないんだって話だよね」
「やっぱ兄貴もそう思う?」
「思う思う。学生時代はそれでわりと荒んでた気がする」
「ふ、兄貴でも荒んだりするんだ」
「そりゃまあ俺も人間ですから……」
この完璧超人の兄貴が荒むほどのモテ具合っていったい…と思ったが、別に兄貴がモテるのはわかりきったことだし聞きたくねぇしいいや、と楽は詳しく聞くことをやめた。
そもそもの話、元々付き合う意思がないことを広めればそれでいいのだろうが、それでもしてくるやつはしてくるし、変な噂が独り歩きし出すのが楽としては面倒なのだ。
だからといって、本当のこと……長男と恋仲であることなんて公表出来るはずもない。
同性愛は今でこそ広まって来てはいるが、まだまだ一般的にはマイノリティだ。
普通の感覚を持っている人間が知ったら「普通じゃない」と差別するのが当たり前で、普通じゃない人たちは一気に肩身が狭くなるだけで。それなら隠しておいた方が賢明だ。
白と英樹が許されているのだから大丈夫、なんて思わない方がいい。あの2人は特例だし、それこそ逆に兄弟内で唯一普通である樹まで疑われてしまうかもしれないし、そうなってしまっては卒業までの残りの2年が大きく狂ってしまう可能性の方が高い。
それならまだ隠し通して、楽1人が多少大変なだけ、がいいと思った。
結果的にそう思ったから、それを貫いているだけだ。
どの道揺らぐことは確実に無い。そろそろ意味が無いことに気づいて欲しいもんだ。
ただまあ、これでも一応申し訳ないとは思っている。好意に応えられないことがこんなにも心苦しいとは知らなかった、というか知りたくなかった。
それでも楽は、里冉が好きなことに変わりはない。それでいいと思っている。
「マイノリティ、か…」
「ん?」
無意識で繋ぎかけていた手をそっと引っ込めかける。すると里冉から逃がすまいと言わんばかりにスルリと指が絡められた。
「ちょ…!」
「大丈夫、今の時代恋人繋ぎしてるくらいで恋人ってバレることはない」
「そういう問題でもないっつーか……ていうか恋人繋ぎって言うくらいなんだから普通にバレんだろ!?」
「腕組んで歩いてても付き合ってない男女とかいるんだから大丈夫大丈夫」
「それは逆に付き合ってないのおかしくねぇか…?」
「まあとにかく、いーの!どうせ見てるのとか近所の犬くらい…」
「あらまぁ里冉くんじゃないの〜今日は楽ちゃんも一緒かい?うふふ手なんか繋いじゃって、仲良いのねぇ」
「!!!」
急にかけられた年配の女性の声に思わずびくりとして、手を離した。今度ばかりは流石の里冉も繋ぎ止めはしなかった。
「こ、こんにちは菊代さん…あぁいや今のは違くて…」
「いーのよぉ隠さなくて。仲良きことは美しきかな、目の保養よふふふ」
「いやだからそういうんじゃなくてですね…!」
「可愛いもの見せてもらったお礼と言ってはなんだけどねぇ、また煮物作りすぎちゃったから持ってってくれる?」
「え!いいんですか!」
「いいんすかぁ!」
「うんうん、遠慮しないで持ってって〜楽ちゃんにはお菓子もあげようね、兄弟にはナイショよ」
「わーい!えへへ、ありがとうございますっ!」
相変わらずの天使スマイルでお菓子を受け取る楽を横で見ながら、「これはモテて仕方ないよねぇ…」と思う里冉。
あんなことを言ってはいたが、モテるのは自業自得ではなかろうか。
こうして里冉は頂いた煮物のタッパーを、楽は大好物の和菓子が何個か入った袋を抱えることになった。
「また頂いちゃったね〜今度お返ししなきゃ」
「菊さん家の煮物うめーんだよなぁ!夕飯楽しみー!」
「俺の作るのとどっちが美味しい?」
「うーん、どっちも超絶うめぇ!!」
「言うと思った」
「あーちょっとそこの雨立兄弟!」
「はい?あ、梅雨梨さん」
今度はここらで人気の雑貨屋&カフェをしている梅雨梨さんから声をかけられる。
どうやらお店で使うものを運び入れている最中だったようで。
「どっちか中にこれ運ぶの一瞬だけ手伝ってくれない?お礼はアイス二人分で」
「はーい俺やるぅー!」
「綺麗に釣られたねらっくん…」
「お、楽ぅ!助かるよありがとう」
そうして楽は重そうなダンボール箱を何箱かさらっと運び入れて、アイスを貰ってくる。
「はいっ兄貴どっちがいい?」
「バニラかな」
「だと思った!ん!」
「ありがと」
ちょっこれーと♪ちょっこれーと♪と鼻歌交じりにアイスに齧りついた楽。続いて里冉も渡されたそれを口に運んだ。
歩きながら食べるのは如何なものかと思うのだが、家まではまだ少しあるというのと気温のせいで今食べる以外の選択肢が無いのが現状だった。
あと持ち帰れば先に帰ってきている白達に羨ましがられてしまう。
せめて歩かずに、と丁度いい場所にある小さな公園の小さなベンチに座りながら食べる。
すると遠くから見覚えのある顔が。
「お、里冉くん。それに楽くんも」
「龍さん〜!なんだか今日はいろんな方に出会うなぁ」
「どもっす!」
「アイスかぁ、青春だなぁ」
「ちょっとよくわからないです」
「ははは、学校帰りかい?」
「そうでーす!」
「あぁそうだ、昨日親戚の農家から野菜が届いたんだが少し持っていくかい?」
「わ、いいんですか〜!助かります」
「里冉くんに料理してもらったら野菜も喜ぶだろうしな」
「ふふふ、なんですかそれ〜」
「ちょっと待っててくれ、持ってくるから」
「はーい、ありがとうございます」
龍さんから袋いっぱいの野菜を受け取り、更についでだとお菓子を貰った。
どうやら楽がいるとお菓子が貰えるようだ。完璧子供扱いなのだが、当人はそれをむしろ利用しているようで、仕草や言動がいつもより幼い。多分、お菓子欲しさに意識的にしている。思惑通りなのか、どう見ても小中学生だ。制服は高校のものなのに。
あざといけど可愛いな、と許してしまう里冉だった。甘い。
そんな調子で、家までの道のりは様々な人から、いや主にご老人からお裾分けを沢山頂いてしまった。
明らかいつもより多いので、何故かと首を捻る。
あ、そうか、楽を連れていたからか。
キッチンでさっき貰ったものを2人で仕舞いながら、里冉はそう納得していた。
「なんか、お裾分けの山!って感じだなぁ」
「ありがたいね〜今日買い物行かなくていいかも」
「普通にご近所歩いてるだけなんだけどなー」
「らっくんは学校だけじゃなくご近所のアイドルでもあるもん」
「兄貴も大概だろ〜むしろ俺より人気じゃね?」
「そんなことないよ〜」
「つーかいつから俺はアイドルに…」
「生まれながらのアイドルでしょ」
「まじかよ〜楽困っちゃう☆」
「ふふふ、何キャラなの、ふふっ」
あははっと2人は顔を見合わせて笑った。
家は予想を反してまだ誰も帰ってきていなかったので里冉はいつもより楽との距離を近づけ…いやいつもも充分近かった。無意識だった。
でも折角2人なんだからこれくらいはいいよね、と。
「…んだよ急に」
「…欲求不満?」
「そーかよ…」
「というからっくん不足かなぁ」
「ん…っ」
指を絡めて、その柔らかい唇に自身のそれで触れる。
帰って早々何イチャついているのだろうかと自らツッコミながらも、やめる気はさらさらない里冉だ。楽が嫌がれば止めるつもりだったんだが、嫌でもないらしい。
キスがだんだんヒートアップしていく。
まずい、このままではここでおっ始めてしまう。流石にそれは避けたい。
「あ、にき……、だめ…樹たち帰ってきちまうだろ…っ」
「…部屋行こうか」
「あーもー!だーめっ!つか兄貴は夕飯準備!俺は課題!」
「えーー普段課題なんて言われなきゃ手も付けないくせに…ちぇっ」
「うるさいな、言われなくてもやってるっつの」
「じゃあ今夜…だめ?」
「……っ」
その綺麗すぎる顔でしゅんとするんじゃねえ!かわいいからやめろ!!
楽はそう思いながら顔が見えないように頭を里冉の肩に埋めた。そして小声で呟く。
「……わーったよ」
「…!」
「誘っといて先寝たりなんかしたらマジ叩き起すかんな」
「わぁ思いのほか乗り気」
「欲求不満がお前だけだと思うなよ」
「らっくん…」
深夜に樹にバレないように部屋を抜け出して里冉の部屋まで行って極力声や音を抑えながら、ってそれなりに大変なのだ。まあどの道、翌朝にはだいたいバレるのだが。
「……で、なんでまだ離してくんねーの」
「まだ誰も帰ってきてないしいいかなーって」
「帰ってきてからじゃ遅いだろ」
「ドア開く前に足音でわかるから大丈夫」
「お前本当に人間かよ」
「それは君が一番知ってるでしょ」
「まあな」
なんて話しながらしばらく抱き合っていたが、お互いなんだか恥ずかしくなってしまい「よ、よし!」と体を離した。
手を繋いだりキスやその先をしたりは慣れているのだが、何もせずただ抱き合うだけ、というのは不慣れだったりする。
楽は真っ赤になった顔を隠すようにそそくさとリュックを持って部屋へ入っていった。
それを見て、いやいやなにそれ可愛いが過ぎるでしょ………と語彙の無い腐女子のような感想を漏らしながら、里冉は夕飯の準備を始めた。
「よし、今日は樹の好物にしよう…!」
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