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火照り③
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その後、売店で焼きそばやかき氷を買い、みんなで腹を満たした。
まだ遊び足りない、と子どもの様に駄々をこねるよっちゃんに、全員が賛同するとは一体どういう事だ。
ウォータースライダーに大はしゃぎする俺らを、監視員は冷ややかな目で見ていた。
「はぁ、つっかれたー……」
「そりゃそうだろ、あんだけはしゃげば疲れもするわ」
「子どもが凄い目で見てたな……大人気ないな俺ら……」
閉園の時間も近づき、人影がまばらになった更衣室で項垂れるように余韻に浸る。
賑やかに帰る親子連れの背中を眺めていると、誰かのロッカーから携帯の着信音が響いた。
彼らは立つ気力も起きないのか、必然と余力が残っている俺が確認することになった。
「……あ、俺だ」
ディスプレイには『不在着信 宮内蒼』の文字。
胸が僅かに高鳴るのを感じる。
「ごめん、ちょっと電話してくる」
おー、と心底怠そうに返事をする彼らを横目に、着信履歴から彼の名前を探す。
呼び出して間もなく、コール音が2回ほど鳴ったところで彼は電話に出た。
『急にごめん、今何してんの』
「沢村たちとプールに来てる。今帰るところ」
『そっか……良かったらだけど、この後会えない?宵の顔が見たくなった』
「あ……うん、いいよ。俺も会いたい」
抑えられないにやけ顔が、今の感情をすべて表わしていた。
抜け殻も同然の彼らが、この後どこかへ行こうと言うとも思えないし。
と、まぁ、考えるより先に答えが出たのだが。
『場所は?迎えに行くよ』
「まじ?……えーっと、高校の近くの市民プール……なんて名前だっけ」
辺りを見渡し、この場所の名前を確認しようとしたところ、背後にゆっくりと黒い影が近付いてくるのが見えた。
沢村か誰かが俺を脅かそうと思ったのか?そうはいかない、と振り向いた瞬間、口を手で塞がれた。
「!?んんーっ!」
あまりに突然の事で、気が動転して理解が追いつかない。
抵抗しながら見上げた顔は、見たことのない人物であった。
気味の悪い笑みを浮かべて、物凄い力で引っ張られる。
こういう時に、人間の無力さを痛感する。
奴を易々と倒せる力はあるはずのに、恐怖が勝ってしまうと、もうどうしようもない。
「大人しくしてれば悪いようにはしないよ」
「ん、んんーっ!」
『─おい、宵!どうした!!』
「うるせえ……」
チッと舌打ちをしてから勝手に通話終了のボタンを押されてしまう。
身をよじって沢村たちに助けを求めようとしたが、生憎声は届かない。
男女共用の広いトイレの扉を開け、背中を突き飛ばされ押し込まれると、虚しく鍵の閉まる音が聞こえた。
「残念だったね……もう誰も来ない」
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