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火照り⑥
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とてつもないスピードで意識が戻るのを感じる。
視界が、聴覚が、全てがその音のする方に注目していた。
「なっ…誰……」
扉が開き、姿を現す間もなく男は何者かに殴られ、気付いたら悲鳴をあげて地面に倒れていた。
余りに突然のことで、ただ惨たらしく痛めつけられている男を呆然と眺めるしかなかった。
続いて、その『何者か』に視線を移すと。
「宵!!」
呼ばれるだけで胸がじんわりと溶けていくようなそれは、紛れもなく彼 ──ミヤ先生の声だった。
一度俺の顔を悲しそうに見つめた後、身体が千切れそうになるくらいにきつく抱きしめられる。
ごめん、ごめんと何度も謝る彼の悲痛な声に、涙が溢れて仕方がなかった。
「……ヒーローみたいだ、」
「…………は?」
その俺の言葉に、彼の力が緩むのを感じた。
「本当に、もうダメだと思ったから……まさか、来てくれるなんて」
「当たり前だろ……呑気なこと言ってんじゃねえよ」
依然辛そうな表情を浮かべながらも、頬を撫でる彼の手つきは優しかった。
「さぁ、逃げるぞ」
両手を拘束しているベルトを外し、彼が着ていた上着を掛けられ、急いで走り出した。
「な、なぁ!あそこの鍵はどうやって開けたの?」
「凄い剣幕で管理人に『鍵貸せ』って言ったら貸してくれた」
ミヤ先生らしい理由に笑ってしまいそうになる。
しかしここで笑ってしまったらきっと怒られるだろう。
繋がれた手をぎゅっと握って、彼の後ろ姿を見つめた。
しばらく走り続けていると、急に立ち止まり、「座って」とベンチを指差された。
「その…ごめん、心配掛けた…よな」
彼をちらりと見やると、いつの間に自動販売機で買った水を投げてきたので、慌ててそれを受け取った。
痛いほどに視線を感じながら口をゆすぐ。
「最近、立て続けに色んな事が起きているから身が持たねえ」
目を逸らさずに彼はぽつりとそう呟いた。
「そうだよな、ごめん」
「違う、謝って欲しいわけじゃない。……逆に俺が謝らなきゃいけない、守れなくてごめん。怖かったよな」
手を広げ待っているので、濡れた口を拭って、素直に彼の胸に収まった。
トクン、トクンと静かな心音が聞こえてくる。
「旅行行った時もお前のこと見てる奴がいて、めちゃくちゃ不安になったと思ったら、こんな事が起きて……」
「…うん」
「本当に、宵は危ういんだ。色んな人を無意識に惑わせている。それが怖いんだよ。
……こんな事が起きるなら、お前をどこかに監禁してしまいたいよ」
「はは、こえー。
でも、本当の俺を知っているのはミヤ先生だけだよ」
─トク、トク。
「俺が見ているのはミヤ先生だけだし、ミヤ先生しか見えていない。他の奴にどんなに好意を向けられても、何も感じない。何かされても……ミヤ先生以外から触られても、数の内に入らない。」
心配しないで大丈夫、と一言だけ言おうと思っていたのに。
切なそうな彼の顔を思い出して、本音が思わず漏れた。
「宵…」
「ミヤ先生が…う、上書きしてくれれば……」
自分で言っておいて恥ずかしくなり、顔を手で覆った。
彼の腑抜けた表情が容易く想像できる。
「お前、自分で言ってること分かってるのかよ……」
「うん、」
彼からしたら、そんな簡単な事じゃないのだろう。
きっと今は罪悪感で苛まれているに違いない。
でも、俺は本当に、ミヤ先生以外どうでもいいんだ。
「あぁ、もうっ……」
呆れたように髪をぐしゃぐしゃと掻き、暫し見つめ合った後、貪るようなキスをする。
冷えた舌が、彼の温度になっていく。
下唇を甘噛みされ、口内の敏感な所を舐めて攻められると、腰がビクつきながら逃げていってしまう。
しかし、腰を強く引き付け内腿までのラインを摩られると、快感の蕾が段々と膨らんでいくようで。
「っん、はぁ……あっ…」
どちらのか分からない唾液が、顎を伝って落ちていく。
獣のように我を忘れてキスをしてくる彼は、いつもより情熱的であった。
ゆっくりと離れていく紅い唇を見ていると、首筋に「俺のモノ」と主張せんばかりの痕を付けられる。
「……帰ろ 、家に」
その時、彼の揺れる瞳がギラリと妖しく光ったのを、俺は見逃さなかった。
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