アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
最初の話
-
最初の話
鶏の声で目が覚める。あくびを噛み殺しながら起きると、隣に男が2名転がっていた。周囲には酒の瓶。
「あー。そっか」
俺はぼさぼさの頭を掻いてから体を伸ばして立ち上がる。それに反応するように横になっていた1名が起き上がった。
「…吹雪さん。起きたんですか?」
「うん。昨日何時まで飲んでたの?」
俺の名を呼んだ男はぼんやりと指を折って数えている。この男は大杉 琥太郎。地元の猟師だ。俺のやっている民宿によく肉を下してくれる。
まだ、22歳ながら、祖父から鍛えられた腕は本物で。小さなカモから上は大きなクマまで祖父から譲り受けた猟銃で撃ち抜く。
趣味は剥製作り。いい小遣い稼ぎになるそうで、毛皮が売れないものはよくそのまま剥製にしている。
作ったものをうちに持ってくるものだから、うちの民宿はタヌキや、ウサギ、クマなどの剥製だらけだ。地元からも気持ち悪がられている。
その割に彼は、サバサバ系男子で、容姿は悪くないと思う。髪は真っ黒で、少し長めだが清潔感がある。目鼻立ちも整っており、感情の読めない黒目の大きな目はシカのように澄んでおり、肌は普段から着込んでいるせいで白いが、俺よりは焼けている。
「…多分3時。」
伸びをしながら彼は横に寝ている大男を小突く。大男はそれで目を覚ました。俺を見ると、ふっと微笑む。寝起きのけだるげな装いながらも、それでいて色香がある。
大男の名は二荒 晃。皆さんもご存じのように、よくCMで流れている「にっこにこやーさい」は彼の会社である、ニコニコ野菜スーパーのものだ。
女の子が、「私、トマト嫌い」というと、すかさず母親が「じゃあ、これは?」とニコニコ野菜のトマトを出す。
女の子はおいしそうにトマトにかぶりつき、「イチゴより甘い、ニコニコトマト。トマト嫌いもこれで決まり!」と、最後にこの大男が現れさわやかに微笑むのだ。
容姿の整った、こいつに微笑まれて落ちないマダムはいない。34だったか。年齢すら油ののった彼は、1代で自分の家がやっていた農家を大きくし、さらに市内や、郡に沢山の野菜中心のスーパーを展開した。
それが大当たり。現在では都内にも勢力を伸ばし、店舗拡大している。それもこれも、イチゴより甘いトマトのバイオ研究に成功したこいつの偉業のおかげだった。
自身も国立農大を首席で
卒業し、トマトや、根菜野菜のバイオ研究で博士号を持っている。
そんないけすかない男がなぜ俺の家にいるかというと、まあ話せば長い。
俺の親父は町…というよりは集落に近い少し離れた山奥で民宿をしていた。客はほとんど来なくて、まあ、趣味でやっているようなもんだった。そもそも、俺の爺さんが土地持ちだったおかげで、食いつないで行けたんだけども。
だから、山もまあ、相続した親父の土地で。客なんでほとんど来なかったし、俺も継ぐ気はなかった。
俺は東京の大学に進学してから、二荒 晃に会った。地元の人間ということもあり、郷土を愛する彼の考え方に賛同したし、そのまま地元に戻り彼の会社に就職した。
いや、別に東京の就職先に軒並み落ちたとかじゃなくてね?
まあ、彼の会社で下働きみたいなことしてたんだけど。なんか。。。疲れたんだよね。いや、待遇はよかったし、福利厚生しっかりしていたし。でも。
何故か二荒 晃の干渉が尋常じゃなかった。
社長である二荒 は良く職場に顔を出した。別に悪いことではない。俺も初めは、そこそこ愛想よくしていたものだ。
「おはよう。佐倉。どうだ?仕事で困ってることないか?俺で良ければ、なんでも手伝うから言ってくれ。」
「佐倉、もう少し肉をつけたほうがいい。その方が抱き心地よさそうだ。いや、セクハラ?はははははは。佐倉は面白い奴だな」
「ねえ、佐倉、今日少し残れるか?飯でも行こう。美味い店見つけたんだ。いや、社長命令って訳ではないが。」
俺も馬鹿ではないから、なんとなく色のついたお誘いが出始めた時点で、逃げ道を探していた。同僚達からの視線も痛かったし。
そんな時、親父がポックリ逝ってしまった。山菜を取りに行って、崖から落ちたのだ。山歩きのプロである親父があり得ない話だが、どうやらクマに追われていたらしい。傍にクマの足跡があったそうだ。
葬式の時、地元の猟師組合が言っていた。その時に知り合ったのが、大杉 琥太郎だった。彼は、その猟師組合に最年少で参加していた。その時はまだ19かそこらだった。
彼は中学を卒業してから、すぐに祖父を師匠に猟師になった。と、言っても猟銃は18歳からだから、それまで狩りの事や獲物の見つけ方など学んだらしい。
両親は、彼が幼いころに他界しており、祖父が面倒を見ていた。祖父は猟師で、彼に山で生き抜くためのサバイバルを叩き込んだ。
それも、現代に見合わないような、古風なものをだ。生活も、祖父に合わせていたからか、彼の家は資料館にありそうなかやぶき屋根で、囲炉裏を囲む生活をしていた。携帯は持ってたけど、見事に二つ折りだった。
まあ、それも土砂崩れでダメになったんだけども。
彼は、親父を死に追いやったのは、自分が前に逃したクマではないかと責任を感じ、俺のもとへ情報を持って遊びに来るようになった。
俺はその時、親父の死を理由に二荒の会社を退職し、民宿を継いでいたからいつでもウエルカムだったし、そもそも客もほとんど来なくて人恋しいのもあったから、毎回歓迎していた。
土砂崩れがあった時も、丁度民宿で山菜そば作って2名で食べている時で。琥太郎が飼っている猟犬の大虎が泡を吹きながら泥だらけで走ってきたから、二人で家に向かうとそこに家はなくて。ただ土砂があるだけだった。
琥太郎は、一瞬言葉を失ったけど、数日かけて土砂を掘り起こして、仏壇から家族の位牌と、祖父の形見の猟銃を掘り起こした。俺も手伝った。その日は、そのうち雨が降り出して。2名と1匹で民宿に戻った。それから、そのまま琥太郎は俺の民宿の部屋に住み始めた。どちらも何も言わなかったけど。なんかそれが当たり前のようだった。
しばらくしてから、まったく音沙汰のなかった二荒 晃がこの山を売って欲しいと、俺の元を訪ねてきた。なんでも、道を通して、ニコニコランドを建設したいらしい。
つか、そもそも、この山が俺のものだと知ってきたらしいのだけど。
ものすごい大金をちらつかせてきたけど、俺は断った。
俺は、もうここで生きていくつもりだったから。贅沢しなきゃ、遺産もあったし。不動産も少し残っていた。
それに、琥太郎の居場所をなくしちゃいけないと思った。
二荒 は、毎回土産を持参しながら俺の家に来るようになった。別に山はもうどうでもいいようで、最近は「なあ、売る気になったか~?」と、挨拶に口にするだけだ。
ただ、それを口実に遊びに来ているだけのようだ。
俺の名前?俺は佐倉 吹雪。すげえ名前でしょ。親父が遠山の金さんのファンだったんだよね。ちなみに、年齢は…この2人の中間くらいかな?顔は普通。特技もない。身体も、普通よりやや劣るかな。
これからたまーに話すのは、俺と。この2名の男が織りなすただの日常。だから、まあ、力抜いて読んでよね。
不定期更新。
今後は完結せずにそのまま増えていくと思います。一話完結。話と話は特に繋がりません。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 6