アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
25
-
二人して屋上のコンクリートの上に座り込んで、暖かな日差しを受けていた。
そうして俺たちは、元通り、「服を着ろ」「折原くんが着させて~」いつかの会話と同じようなやり取りをする。
変化のない関係。ぬるま湯に浸されふやけた距離。
心地いいというよりは、心が波立たない。余計な気遣いをせずに済む。
維持は堕落の始まりだと、誰が言った。
変化こそ、堕落だ。
俺には必要のないものだ。
「――昨日、西永くんとなにかあった?」
「……別に、」
別にって顔してないけどねえ~。佐保が間延びした口調で痛いところを突いてくる。俺はあからさまに顔を歪めてやった。
干渉してくるな、と。
暗にそう体現する。
しかし――こういうときの佐保は、必ずと言っていいほど面白がって、俺の意図に気づかない振りをして、好き勝手にこちらの心に土足で入りこんでくる。
「うーん、喧嘩なんて非生産的なことを折原くんがするわけないしなあ」
「何もなかった」
「ナニかはあった?」
ぴたり、と。不意を突かれて、思考も、舌も、身体も、すべて止まってしまった。これこそ“何か”あったと体現しているようなものだ。しくじったとは思いながらも、すぐさま冷静になって表情を取り繕う。舌の動きがやけに苦々しかった。
「……言葉遊びも大概にしねえと、いつか足元掬われんぞ」
「あれれ、それって自分自身への警告?」
「るせえ」
「ちゃあんと言い返せないところが図星だったみたいだね」
「…………」
今度こそ、手詰まりというか、口詰まりだった。
俺はすべてを諦めて、およそ青空に似つかわしくない溜め息をごっそりと吐き出す。佐保なら無駄に騒がないだろうと思い、素直に認めることにした。
「……なんで分かった」
「歩き方に違和感があったから、もしかしたらと思ってねえ」
そっかあ。と佐保は青い空を見上げた。色素の薄い髪が重力に引かれ、白い頬をさらりと滑り落ちる。端から見れば、佐保は今にも青空に飲み込まれそうだった――そんなことはありえないと分かっていながらも、どうしてかそう思ってしまう。
佐保がどことなく悲しげに見えたからかもしれない。
「どうりでいつもと雰囲気が違うと思った」
「はあ? 雰囲気?」
「そう、雰囲気」
自分じゃあそんなことは全然分からないし、まさか昨日のことに影響されてるとは少しも思っていない。思わず自分の身体を見下ろすが、やはり変わったところは何もなかった。
隣に座っていた佐保が、身を乗り出して俺に近づく。手を伸ばし、無遠慮に俺の頬に触れてくると、その小枝のように細い指が踊るように輪郭をなぞっていく。耳元まで登った指に横髪を掬われ、ゆったりとした動きで耳にかけられる。佐保はあらわになったそこに吐息で囁いた。
「今日の折原くん、すごく陰鬱で――ぞくぞくしちゃうくらい背徳的なんだもの」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 51