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佐保を振り切るようにして屋上を飛び出した。
手の甲で乱雑に口元を拭う。それでも胸に巣食うなにかまでは拭えない。
階段を転がるように降りていく。俺は物理的に逃げていた。腰に走る痛みですら俺自身を止められない。
握り締めた拳に佐保の体温が残っているような気がした。
さらに握り締めて、振り切る。
俺はいつまで逃げ続ければいいのだろうか。
授業中にやってきた、あからさまにサボっている俺を、九郎は何も言わずに保健室に招き入れた。
小言や嫌味はともかく、キスの一つでも要求されるかと覚悟していたが、拍子抜けだ。
そう思っていると、まるで俺を気遣うような九郎の仕草や視線が目についた。室内に歩みを進めながら、壁に掛かっている鏡を覗きこむ。
蛍光灯の白々とした光に反射するもう一人の俺は、見るからに生気がなく、今にも死にそうな顔をしていた。
……なるほど。いやなるほどでもねーけど。
俺は病人の振りをして、保健室のベッドに潜り込みながら放課後を待つことにした。
昨夜ほとんど寝れなかったせいか、横になっているとうつらうつらしてしまう。会議まで優に三時間はあるため、どうせならこのまま寝てしまおうかと思った。
九郎が傍へ寄ってきて、ベッド脇の椅子に腰かける。
「おねむか?」
「んー……。五時前に起こして……」
「明人のお願いならしょうがない」
そう言って九郎は、賃金をもぎ取るかのように俺の額に唇を寄せた。大袈裟なリップ音が鳴る。そのくすぐったさに眉間を寄せ、九郎とは反対の方向へ寝返りを打つ。
「……ん、」
背を向けてすぐ、九郎の指が首筋をなぞるのがわかった。ある一点を執拗に確かめているようだった。
「……明人、これ、誰がつけた」
眠気でぼんやりとした頭は、いつもより少し低い九郎の声に違和感を抱かない。
「これ……?」
「キスマーク」
「しらね……」
布団のぬくもりにまどろんでいれば、舌の動きがたどたどしいものになる。
ギシリとベッドが啼いた。
九郎が俺に覆い被さる気配を他人事のように思っていれば、柔く肩を捕まれ、強制的に仰向けにされる。
薄く目を開いていく。蛍光灯の陰が落ちた九郎の表情は、どことなく怒っているように見えた。
九郎の親指が唇をなぞる。
「……誰かに許したのか?」
「ん……」
今日だけで何度塞がれたかわからない唇は、触れられただけで高まりへの期待に満ちるような、淫らなものになってしまっていた。
もどかしい指の動きが理性を焦らす。
一人では味わえない快楽を知ってしまった今、どうしようもなくその先をねだりたくなってしまう。
そんな浅ましい思考が舌の先まで浸透したのか、危うく九郎の指に舌を這わせてしまうかというところで――。
「ちょっと待て」
冴えた思考と明瞭な視界、ついでに鋼鉄の理性が舞い戻ってくる。
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