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――ま、て待て待て。
なに考えてんだ俺は。そんなこと、万が一にもあるはずがない。なんなら佐保の命くらい賭けてもいい。
でも。
もしも。
万が一。
そんなことが、あったら。
一度湧いてしまった疑念は、頭の片隅にこびりついて、なかなか離れようとしてくれない。
人間は常に最悪の事態を考え、そうでない現実に安堵しているとかなんとか言った人がいたが――まさにそれだ。
俺は安心したいのだろう。
考えたくはない、キスマークをつけた犯人が誰なのかを考える理由は、ただそれだけにすぎないのだと思う。
探して、見つからないことに安堵したいのだ。
『お前の悪い癖が他の奴を受け入れるくらいならば――』
『おれのものにならなくていいから、誰のものにもならないで……』
俺は、誰のものでもないということに。
「保健医がいない間に何かあっても困るからな。俺の監督不行き届きにされんのは御免だ」
委員長の言ったことは、本音としか言い様がないまでに利己的だった。ときおりこの世に産声をあげる委員長の優しさは、こうした利己心から生まれるのだろう。
「デスヨネ」
やはり俺の思い違いだ。委員長がそんなつまらないことをするはずがない。第一、メリットがないのだから。
そもそも委員長は、キスマークをつけて矮小な独占欲を誇示するような人ではない。ごつい首輪のひとつやふたつを、歪な笑みを浮かべながら至極愉快そうにつけてきそうな人だ。想像に難くないところがすでにその証明となっている。一体どんなプレイだ。
「はは、俺が寝てる間に変なことしてるわけないですよねはははは」
よかったよかった。
俺の思い過ごしだ。
おおかた西永のせいで軽い人間不信にでも陥っているのだろう。
追いつけない現実に、俺は疲れているのだ。
会議が終わったら早く寮に戻って、熱いシャワーを浴びて、九時には寝てしまおう。
明日の朝、腰の痛みくらいはどうにかなっているはずだ。
「…………」
パタリ。委員長は静かにノートパソコンを閉じた。瞑目していたが、その表情はいつもよりかたかった。
「ははは、は……」
やっべ。どっと出た冷や汗が背筋を伝う。つまらないことを口走ったせいで、どうやら委員長の怒りを買ってしまったらしい。
そう。
俺はてっきり、委員長が怒っているものだと思い込んでいた。
だから――。
「っわ……!?」
近づいてきた委員長に腕を捕らわれ、会議室の机のうえに寝転がされるはめになったことも。
「んん――?!」
強引に唇を塞がれたことも。
全部、血の海にかわる、新手の罰かなにかだと思ってしまった。
もしくは、悪い夢だと。
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