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「てめェのせいだ」
離れた唇が、言葉をかたどる。
――俺のせいだと、言う。
「い、んむっ、」
委員長、と意味もなく口に出そうとして、言葉ごと奪われた。思考は状況についていけずにふがいなくも停止した。伏せられた睫毛の長さに見とれる。
「てめェのせいで、俺は二度も校則違反をした」
「ん、」
ちゅ、ちゅ、と角度を変えて何度も唇を啄まれる。委員長の形相からは想像もつかないほどの甘く優しいキスの雨が降る。
唇の感触がダイレクトに伝わって、その柔さに思わずうっとりとしてしまった。気持ちいいというより、心地よい。相手の味を楽しむ余裕のあるキスも、案外悪くないものだと思った。
離れていく他人の熱。いつの間にか閉じていた目を薄く開く。てらてらと光る銀糸が伸びて、ぷつりと切れた。
ぼうっと、する。
「そんなによかったかァ?」
委員長は喉奥をくつくつと鳴らした。現在進行形で正常でない俺の頭は委員長の問いにバカ正直に頷いてしまう。俺の反応に気を良くしたのか、委員長は俺を褒めるように優しく頭を撫で付ける。
委員長の大きな手はやはり顔に似合わず温かい。特に抱いてもいない期待を裏切ってくるところが委員長の怖いところその三十二である。全部でいくつあるのかはわからない、のであとで本人に直接聞くことにする、という明確な死亡フラグを立てるだけの簡単なお仕事はしない。
どうやら調子が戻ってきたらしい。さてこの状況をどうしようかと他人事のように考える。
『てめェのせいで――』
委員長は、確かに“二度”と言った。二度目の校則違反だと。
委員長の言うところの校則違反がなんなのか、それがわからないほど馬鹿でも鈍感でもない。
だけど俺は知らないままでいたかった。
だけど俺は知らなくちゃならなかった。
俺は誰のものでもないということを。知って、安心したかった。
「首のキスマーク、」
「あ?」
「委員長が、つけたんですか」
途端、沈黙が転がる。正面からその切れ長の目を覗きこんでしまい、もうなにも出来ないんじゃないかというぐらい居竦まった。
委員長は黙ったままだった。黙ったまま、俺の首もとに顔を埋めて、舌を這わせた。熱いそれに、ぞくぞくとこみあがるなにかを堪えるように息をつめる。俺が身体を強ばらせていることに気づいたのか、委員長はニヒルな笑みを口端に滲ませながら俺を見下ろした。
鋭い犬歯がちらりと見えて。
喉元に、それがあてがわれた。
「っ、ひ」
がぶり。痛覚を刺激されたがための本能的な恐怖を感じる。強ばる身体に鞭を打ち、委員長を突き飛ばそうとした。しかしいくら跳ね返そうとも俺の手を押さえつける委員長の手はびくともしないし、かたい机のうえで暴れまわろうものなら、容赦なく腰に鈍痛が襲ってくる。
がぶり、がぶり。
甘噛みなんて甘いもんじゃない。
「っ、い……!」
――これは、補食だ。
委員長の獣じみた荒い息が肌をくすぐる。
肩を噛まれる。
首を噛まれる。
耳を噛まれる。
痛いはずなのに、逃げたいはずなのに。噛まれるたびに身体の奥底がカッと熱を帯びて、どうにも身動きが取れなくなる。
「キスマークなんて甘ったるいモン、俺がつけるワケねェだろうが」
「やぁ……!」
耳朶を食み食み、委員長はそう言った。地を這うような低い声が俺の鼓膜を震わせる。首もとから腰までが甘い痺れに襲われる。他人から与えられる快楽がどれほどであるかを覚えた身体は、はしたなくもキモチイイことを期待しているようだった。
いつの間にかはだけていたワイシャツの胸元。薄い胸板のうえには、緩んだネクタイと、紅梅に熟れたふたつの飾りが座していた。その先端は既に立ち上がっていて、俺は見ていられずに視線を逸らす。
と、委員長の、爛々と目の奥をたぎらせたそれとかちあう。
「食べ頃だなァ?」
委員長は躊躇うことなくそれを口に含んでみせると――
「っ、や……んあぁあっ!」
既に立ち上がっていたその先端を、思いきり噛んだ。
一際高い自分の嬌声が、やけに遠くから聞こえてくる。感じるのは、脳髄を直接揺さぶってくるような痛みと――。
背中をのけ反らせ、襲いくるなにかから逃げようとするが、さらに委員長に押しつける形になってしまった。浮いた腰をガッチリと捕らわれ、さらに舌で追い立てられる。
「折原、てめェ、なかなかの変態だったんだなァ……」
「ひぁ……ん!」
「男にこんなとこ弄られてるくせに、女みてェにひんひん鳴きやがって」
「や……ちがっ……!」
「あ? ナニが違うって?」
「っう……あぁああ!!」
再び襲い来る鋭い痛みに、頭の中が真っ白になる。なにも考えられないまま、どくり、下半身に集まっていた熱が迸るのを感じた。
「あ…………」
一気に血の気が引いた。
嘘、だろ……!
信じたくはねえが、まさか……まさか……!!
さらに最悪なことに、会議室の扉が、音を立てながら勢いよく開いた。
「――なんすかこの折原センパイのくっそエロい声は!!!! 幻聴でも嬉しい!!!!!」
とりあえず、誰でもいいから、なにも言わずに胸とティッシュ貸してくんねえ……?
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