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向けられる視線に気づかないふりをして。
捕まれた腕を振りほどいて。
重なる唇を押し返して。
そうやって、俺はいつまでも抵抗するふりしかできないのだろう。
紛い物の愛すら欲しがる貪欲な子供である内は。
溶け合う熱の心地よさを知ってしまった、淫らな身体が静まるまでは――。
俺にとって唯一無二のポジションである親友。その椅子に座していた西永。今となってはその構図が遥か遠い昔のことのように思えて仕方ない。
俺が、一方的に、良好に続いていたと解釈していただけの関係性。
そんなくだらない関係に終止符が打たれてから、はや幾日かが過ぎた。
こんなはずではなかったという後悔の念、その塊が絶えず目の前にぶら下がっている。
俺が早くに気づいていたら、なにかが変わっていたんじゃないかと。
そんなことを思う度に、もうひとりの自分がどこか深淵から顔を覗かせて、『変わっていたとしてなにになる』『お前はきっと同じように傷ついたふりをして』『アイツを避けていたはずだ』『そうしてアイツも同じようにお前を避けていたはずだ』口早に俺を捲し立てる。
『お前たちは』
『最初から』
『親友なんかじゃなかったってことだよ』
うるせえ。
『お前だってうすうす』
『アイツの含みのある視線を感じていたんだろう?』
うるせえうるせえ。
『それを無視をして』
『一方的な愛に甘えて』
『放置していたのはお前だろう?』
うるせえうるせえうるせえ。
『悪いのはお前だろう?』
「――うるせえッ!!」
ギギィ、ガン、ガン、ガン。勢いよく立ち上がった反動で、ほんの今まで座っていた椅子が教室の床に無様に倒れこんだ。突然の叫び声と騒音に、クラスは一瞬、しんと静まり返った。なにか化け物でも見るような目が、無数にこちらに向いている。
「ご、ごめん折原、先生の声、そんなにうるさかったか……?」
今にも泣き出しそうな顔をしながら問いかけてくる松原先生。童顔な先生の表情が歪む様は子供を泣かせているみたいで心臓に悪い。「い、え」罪悪感のようなものが込みあげ、申し訳なさに首を横に振る。
「気分が悪いんで、保健室に行ってもいいですか」
「あ、ああ……」
先生は戸惑いながらも頷いてくれる。視線を俺の隣に移し、潤んだ瞳で西永を捉える。俺は思わず身構えた。
「えっと、じゃあ、付き添いに――」
「一人で!」
自分が思った以上に大きな声が出た。松原先生の肩が跳ね、瞳がさらに潤む。
――ああ、クソ。
変な夢を見たせいだ。
「一人で、大丈夫ですから」
松原先生に、そして自分自身に対してにこりと微笑んでみせる。
大丈夫。
俺はいつも通りだ。
変わったところなんてなにもない。
少し、周りが騒がしいだけだ。
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