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「――泣かないでよ、折原くん」
気付いたときには、佐保に柔く抱きしめられていた。労るように。傷を舐めるように。トントン、と一定のリズムで背中を優しく叩く。俺をなだめているつもりなのだろう。
「……泣いてねえよ」
「俺のことなんか心配してくれなくていいのに」
「……心配なんかしてねえ」
「うん、そうだね、それでこそ折原くんだよ。どうせならいつものように罵ってほしいな」
「……罵ってねえ」
同じようなことばかりを投げ返す俺に、佐保がくすくすとわずかに身体を揺らしながら笑った。抱きしめられている俺にもその振動が伝わって、少しくすぐったい。
佐保の額が俺の肩口に押し当てられる。
「あー……」
そうして、遠く、深くに淀んでいくような溜め息を漏らした。
なにかを確かめるように、より強く肢体を抱きしめられた。
「……すっごい痛かった」
「ああ」
「痛いのに、気持ちいいの」
「……ああ」
「首絞められてさあ……死ぬほど苦しいのに死ぬほど気持ちよくて――どうにかなりそうだった」
俺は無言で佐保の頭を撫でる。
「おかしいのかなあ、俺」
ポツリと力なく漏らされたそれは、佐保には珍しく、自嘲の色を孕んでいた。
佐保は吐き出すように続ける。
「こうゆう性癖だってことは小さい頃から理解してたし――むしろこうゆうのじゃなかったらきっと俺は壊れてただろうから、一種の自己防衛機能なんだろうけど」
いつもの調子で、淡々と、しかし平生のような表面的な言葉ではなかった。自分の性癖を単なる機能と片付ける佐保はやはりどこか自虐的だった。
おかしいとは思いながらも、すべて状況の特異さに打ち消される。
「でも、最近は特にひどくてさあ。どれだけ乱暴に犯されようが殴られようが蹴られようが物足りなくって――首絞められてやっと気持ちよくて」
「…………」
「さすがに末期だなあって自分でも思ったよ? ここまできちゃったかあって」
「…………」
「だからさっきまで、普通ってなんだろうなって考えたとこなんだけど――」
佐保はそこで言葉を区切って、ゆっくりと俺から離れた。思いの外晴れやかな表情で、俺の方が少しばかり狼狽えてしまう。
暗闇の中で瞬く佐保の瞳は闇夜を吸収して真っ黒なはずなのに、昼の底を映し出しているように透明だった。
「折原くんとこうしてるとすっごく満たされてる感じがして、もしかしたらこれを普通ってゆうんじゃないかなって思ったんだけど――違う?」
俺たちは、どう考えても普通とは呼べない状況にいた。
放課後。空き教室。暗闇。肌色。くすんだ痣。抱きあう。男同士。
どれもが異常で、異端で、特異で、異質だった。佐保だってそれを分かっているはずだった。
分かった上で、コレは、普通だと抜かした。
そうして俺に答えを求めてきた。
そうだと肯定してほしいがための期待なのか。違うと否定してほしいがためにそう言ったのか。
「…………知るかよ」
俺には分からない。
分からなくていい。
「……やっぱり折原くんはずるいね」
佐保が困ったように笑いながら、再び俺を抱きしめた。
ずるい人間にすがるお前は、きっととても弱い人間なんだろう。
佐保、多分それが普通ってことだよ――。
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