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「そこで何をしている」
奇妙な空間、状況に終止符を打ったのは、いささか聞き慣れすぎた声の主だった。
おそるおそる目だけで振り替える。
扉の近くに黒を塗ったくったような影があった。それが取り繕う暇もなく段々と近づいてきて、思わず佐保のワイシャツを握りこむ。「ふふ、」こんな状況だというのにおかしそうに笑う佐保こそおかしい、のは今更な話だった。
西永は抱きあっている俺たちを見て、わずかに目を見開いた。
「佐保……と、折原……?」
……こりゃあクソまずい状況なんじゃねえの。
「よお」とも「巡回お疲れ」とも言えないほど冷えた空気に包まれる。それでも硬直しないのはほんの近くで佐保の体温を感じているからなのかもしれない。
「西永くんこそなにしてるの?」
――っておい!
ぬけぬけと西永に話しかける佐保は勇者か馬鹿の二択であり、もっぱら後者の確率の方が高いのが難点である。
「……巡回中だ。不届き者がいないかの、な」
西永が返答するなりバチリと目があってしまった。ばつが悪いのでそっと目を伏せる。いやに明瞭な溜め息が鼓膜を叩いて俺はもう縮こまるしかなかった。
「もう一度聞くが、ここでなにをしていた――折原」
まさかの名指しに心臓が跳ねる。いや佐保はともかく俺はなにも悪いことはしていないはずだ。おちちゅけ、間違えた落ち着……落ち着けッ!
「西永くんはなんでおれに聞かないの」
「信頼の度合いだろうな」
「へえ~なるほどね~。てっきりおれに嫉妬してるのかと思っちゃった」
「……佐保、言動には気をつけろとあれほど忠告しただろう?」
「あれ、もしかしてそれって負け惜しみだったりする? 西永くんの遠吠えってちょう分かりにくいね」
……なんでこの二人の雰囲気が悪くなってんだよ。
これ以上西永を刺激するなという意を込めて佐保の腹部を突っつく。「いたっ!?」そうして俺は立ち上がり、西永の方へと歩み寄った。西永は思いの外渋面だった。
「あー、西永。状況が状況だけど、誤解だけはするなよ?」
「……では何故抱きあう必要がある」
「ええと、それは佐保の具合が悪いから支えてただけであって、」
「あれの何処が具合が悪いといえる? 頭か?」
「それは年中だろうが」
「ちょっと二人ともそれただの悪口だからね」
佐保もふらふらとしながら一人で立ち上がる。はだけたままのワイシャツを見て、西永が眉根を寄せた。
「では佐保のワイシャツがはだけている理由は?」
「あれ、見て分かんないの?」
くすり、吐息と共に漏らされる嘲笑に西永の眉尻が跳ね上がる。反対に佐保は満身創痍ながらも生き生きとしているように見えた。この二人ってこんな仲悪かったっけな、と現実逃避がてら思案する。
挑発らしきものをかわすように西永は首を振った。
「詳細はあとで折原から聞く。とりあえずお前たちは先に帰っていろ。俺は残りの巡回を済ましてから寮に向かう。いいな?」
「あ、ああ、分かった」
西永の尋常でない気迫に圧倒されてとにかく首を縦に動かす。この場から退散出来るのならばそれが一番の良案に思えた。
不満そうに立ち尽くす佐保を引き摺りながら、もともと俺が行こうとしていた近道を目指す。
「まったく、折原くんてば隠す必要なんてなかったのに」
「なんの話だ」
憔悴しきった俺は吐き捨てるように応える。佐保はしばし沈黙していたが、どうやら黙考していたらしく。
「そうなるとやっぱりおれが下かなあ?」
「なんの話だ!」
寮に着くなり佐保を玄関に放置したのは言うまでもない。
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