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「別に“これ”を付けたのが誰だって構わない」
「っひ、」
言いながら、西永は俺の首筋に口づけを落とした。
「俺はお前に怒っているんだ、折原」
「や、め……んっ」
蛇のような舌が首筋を這い、犬歯が耳を甘噛みする。耳の穴に差し込まれた舌がぴちゃぴちゃと立てる濡れた音に鼓膜まで犯される。思考は既に停止していた。
「あれだけ気を付けろと言ったのに」
「あ……にし、な……」
いやらしく腰を撫でてくる西永の手に血の気が引いた。上半身が裸という事実に今さらながら後悔する。何かを探るような指先がスウェットのズボンの中に侵入してきたところでハッと我に返って、なけなしの思考が舞い戻ってくる。
「おま、ノンケじゃねーのかよ……!」
「誰がいつそう言った?」
「マジかよ……嘘、だろ……」
実は親友がホモで、ノンケの俺に手を出しているなんて――めまいがした。
「もっとも、お前限定だがな」
耳元で甘く囁かれれば、身体の奥が疼き、どうしようもない熱を持つ。必死に理性を手繰り寄せるが、下半身に伸ばされた手がそれを許さない。
徐々に頭をもたげはじめる自身と快楽への欲求。
「お前のことを思って今の今まで我慢していたが、お前の悪い癖が他の奴を受け入れるくらいならば――」
「っあ、ふ、ん……!」
「俺だって受け入れてもらわねば、不公平というものだろう?」
ふとした瞬間に不自由を感じれば、いつの間にか西永のしていたネクタイで両手が固く括られていた。そうして、西永の言うところの俺の悪い癖――何事もすぐに諦める癖――のせいで、あまり抵抗していなかった事実に気づく。気づいてしまう。
どうしようもねえな。
は、と吐き出した嘲笑には不純な熱が籠っていた。
本当に、どうしようもない。どうしようもないことばかりだから、俺がすぐに手放す羽目になるんだ。受け入れる振りをする羽目になるんだ。
今までだってそうやって自分を殺してきた。
だからきっと、今日だってうまくやれる――。
「指、入れるぞ」
つぷり、濡れた指先が俺のナカに侵入していく。西永の指はひどく冷たかった。それが押し進むたびに得も言われぬ気持ち悪さが込み上げてくる。掻き乱すように動けばなおさらだ。
「っあ、く」
「キツいな……どうやらまだ処女らしくて安心した」
「は……安心、かよ、」
「……随分と余裕そうだな?」
「っうあ、ぅ!」
予告なく増やされた指。異物を排出しようと躍起になる動きが西永の指を締め付けるのが分かった。
「そう物欲しそうにするな」
「してな、っ……!」
ぎゅうぎゅうと収縮するそこを宥めるように拡げていく西永の指。痛みよりも気持ち悪さの方が勝ってえづきそうになる。それでも永遠に続くワケじゃないと自分に言い聞かせ、必死にシーツを握り締める。
「っう!? は、う、やっ……!」
そして、西永の指がある一点を掠めたとき。
身体の芯から痺れるような感覚に、自分の意思とは無関係に喘いでしまった。目の前がチカチカと明滅する。固く目を閉じれば、その分敏感になった感覚が容赦なく俺を襲ってきた。
「ん、ふ、ふ、あっ、」
枕を抱きしめ、そこに顔を埋めて、少しでも声を押し殺す。つらいほどの快楽から逃げようと泳ぐ腰、それをがっちりと掴む西永の手の指が皮膚に食い込む感触でさえ、絶頂への導きに過ぎなかった。
強烈な刺激に何度も意識を飛ばしかけながらも、ようやく指の動きに慣れてきたところで。「はあっ……」ずるり、ナカを占めていたものがゆっくりと引き抜かれ、腰から背骨にかけて微細な刺激が駆け抜ける。
西永の枕はすでに原型を留めていなかった。
肩で息をして呼吸を整えていれば、割れ目に熱いそれがあてがわれて、また心拍数が跳ねあがる。
二、三度なぞるような動きをみせたあと、西永は再び俺の腰を抱き寄せると。
「――力、抜け」
「っあ、ひ、っう、んんぁ……!」
圧倒的な質量がナカを押し拡げて、苦しくて、息が出来なくて、ぞくぞくして、それ以外考えられなくなって。
だからそれからのことはあんまよく覚えてねえ、けど。
俺が快楽を追って腰を動かすたびに西永が嬉しそうにしたり、「淫乱」だのなんだの、散々言いたい放題言われてた気がする。
反論出来るような状況じゃなかった。
――めちゃくちゃに壊されるのかと思った。
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