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乱れた衣服はそのままに、悠然と構えて軽口を叩いてくるのは言わずもがな佐保である。
俺は壁にもたれ掛かっている佐保を見下ろすような形で口を切った。
「溜め息をついただけで幸せが逃げるなら、この世に生まれついた大半の人間は幸せを味わえないんだろうな」
「おれはそれこそ真理だと思うけどね~」
「幸せと思えないことを溜め息のせいにする人間の脆弱な心持ちを真理呼わばりか?」
「どっかの宗教が性悪説でも性善説を語るでもなく、人間は弱い存在であるって言ってるじゃない」
「…………」
会話がまったく前進しないことに気づいた俺は静かに口をつぐむ。佐保はしてやったりと言わんばかりににこにこと微笑んでいる。どうやら確信犯らしい。
会話の内容を意味のないものから本来するべき話題へと転換する。
「――で、結局のところ、授業をサボってヤってんのも、放課後の空き教室でヤってんのも、全部お前ってワケでいいな?」
「そうやっていちいちおれに尋ねてくれるところが折原くんの優しいところだよね~」
「確信の裏付けがほしい程度の優しさだがな」
「はは、しんらつ~」
佐保の口調にいつも以上の気だるさを感じるのはまったくもって気のせいではない。少し掠れた声が情事を物語っているようだった。
いまいち締まりがない佐保からは余裕さえ感じられる。否定も肯定もしないのは、単にはぐらかそうとしているだけではなさそうだが――。
「お前も停学くらいは覚悟しとけよ」
「おれは合法的に休めることを喜んだほうがいいのかな?」
「全力で反省しろ」
コレが過去を省みることなどあるのだろうか。単なる快楽主義や刹那主義とは一線を画しているような気もするが、どっちにしろアブノーマルな性質であるということに変わりはない。
はた、と目があった。
「折原くんはいいの?」
「……なにがだ」
濡れたような赤い唇が密かに歪むのを見た。嫌な予感、予感めいた確信が毛先にまでも駆け抜ける。
「風紀委員会の絶対的な会則に、“風紀委員は常に生徒の模範であれ”ってあるじゃない」
瞬時に佐保の言わんとしていることを理解した俺は、目の前の馬鹿なようで狡猾な男を睨み付ける他なかった。
要は、自分のことは棚にあげ、風紀委員が授業をサボっている状況を遠回しに糾弾しているワケだ。
最も効果的な交渉は相手方に最大限のメリットを提示することだが――この場合のメリットは、佐保の密告を受けた委員長に殺される、ことを避けられる、という最悪にして最大のものだった。
手柄と同時に訪れる地獄など俺はいらない。
「……俺とお前は今この場に存在しないってことでいいな」
「さっすが、折原くんならわかってくれると思ってた~」
どうやら佐保の余裕は交渉の余地から来ていたらしい。
「停学なんて食らったら、友達も恋人も右手しかいなくなっちゃうからね」
「最低な理由だな」
こうして晴れ晴れとした青のもと、ひとつの密約が交わされたのであった。
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