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親友の職場
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奏を気遣いながら時間を掛けてゆっくりと歩く。奏は、いつの間にか鼻血が止まったのか血まみれになってしまったハンカチを握りながら申し訳なさそうに視線を送ってきた。
そんな視線に気づかない振りをしながら歩いていると奏の足が止まった。
俺は、奏が歩いている途中で止まって一歩先に出てしまい、振り替えると奏は路地裏を指差して苦笑いを浮かべた。
「多分、オレ入り口から入ると警察沙汰になりそうだから裏口から入りたいんだけどいい?」
「別に俺は構わない」
「ありがと。じゃ、こっち」
俺は、奏に案内されるがまま路地裏に入ると其処はゴミが散乱していたりとお世辞にも綺麗と言える場所じゃなかった。
奏は慣れた様子で歩きながら路地裏にポツンとあるドアの前まで来た。
「オレの職場の裏口。此処まで来れたら大丈夫。もう遅いし、やっぱり修一郎は帰った方が……」
「此処まで来て帰れないだろ。それに俺は今にも泣き出しそうなお前を放って帰ると夢見が悪くなりそうだしな。……高校以来の再会なんだ手当てぐらいさせろよ」
「あはは……なにそれ。オレ、修一郎の前で泣いた事ないだろ。仕方ない。本当にオレから離れないでね。修一郎」
「分かった。というか、離れたら歩けない人間からどう離れんだよ」
「そうだ。今、修一郎から離れたら最悪オレ地面とキスしなきゃいけないんだった」
奏は、いつになく真剣な顔をして離れるなと言ったかと思えば、直ぐにふざけて“ふはは”と笑うと裏口のドアを開けた。
中に入ると狭い部屋と廊下が一番最初に目に入った。部屋と廊下は何処にでもありそうな造りだ。
明かりが漏れる廊下の先からは、食べ物の良い匂いと酒の匂い。そして、ガヤガヤと騒がしい人の話し声が聞こえる。
どうやら飲み屋のようだった。奏が言うほど変な店には思えなくて奏を見ると廊下の先を見つめていた。
濡羽色の長い睫毛を瞬かせ、キラキラと黒い瞳で廊下の先を見つめている姿が、高校時代に初めて会った時を思い出して本当に奏と再会したんだと改めて実感した。
「……え? なに? そんなに見つめてどうかした?」
「いや。鼻血が凄いなと思ってな」
「えっ。そんなに凄い? やっぱり裏から入って良かった。こんなオレを連れていたら修一郎が警察に連れて行かれる所だった」
「そうなったらお前を捨てて逃げるから大丈夫だ」
奏が「酷い!」と言った後に楽しそうに笑うから、俺も釣られて笑ってしまう。
そんな事をしていると、廊下の先からバーテン服を着たガタイのいい男が歩いてきて俺は思わず二度見してしまった。
男も驚いたような表情を浮かべながら、俺と傷だらけの奏を交互に見て眉間に皺を寄せると此方へと向かって来た。
男は俺の目の前に来ると、俺と奏の間に割り込んで奏を抱き締めた。俺は、強引に割り込まれてバランスを崩してドアにもたれ掛かった。
男は俺を睨みながら奏をしっかりと抱き締めると口を開いた。
「あんた!! 奏ちゃんを虐めるなんていい度胸してるわね!! こんなボロボロにして連れてくるなんて人間のクズよ!! このクズ野郎!!」
「……はい……?」
ガタイのいい男は俺を睨み付けながら、早口で怒鳴りつける。状況が飲み込めなくて奏を見ながら俺は固まるしかなかった。
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