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絆創膏と優しい手
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オーナーの背を見送って、奏を支えながら部屋に入ると思っていた以上に部屋は広く六畳程ありそうだった。
部屋には、全従業員分のロッカーや使い古された三人がけのソファー、お菓子などが山積みになった皿が置いてある大きなテーブルがあった。
先ほどオーナーが言った通り、部屋に入った時に真っ先に目に付く棚に救急箱が置いてあった。
俺は、ひとまず奏をソファーに座らせると棚にある救急箱を取ってテーブルに置き、救急箱の蓋を開け消毒液や絆創膏など必要な物を取り出した後、ソファーへと腰掛けた。
消毒液を手に持ち「こっちを向け」と奏に言うと、奏は視線をさまよわせた後、迷子になった子供のような表情を浮かべて此方を見た後下を向くと、自分の太腿に手を置き身を委ねてきた。
俺は、ガーゼに消毒液を染み込ませて、頬にある擦り傷や額にある切り傷、そして殴られて切れた口の端などに付いている血液などを拭って消毒する。
奏の傷口に触れる度に痛いのか体をビクリと震わせるので様子を見ながら優しくゆっくり傷口に触れながら腕などにもゆっくり触れる。
触れる度にビクッと震える奏を見ていると、アイツは誰なんだとか、何があったんだとか訊きたくなるが、今それを聞いたら作り笑いを浮かべてはぐらかした後この部屋から出ていきそうで訊くことが出来ない。
お互い喋らないまま静寂が辺りを支配する。下を向いている奏を見ながら、血が滲んだガーゼをゴミ箱に捨てて救急箱から大型の絆創膏を取り出し奏の傷に優しく貼り付ける。
顔以外は絆創膏を貼り終えて、傷が酷い頬や額に絆創膏を貼ろうと頬に触れると奏はビクリと体を震わせた後俺の手首を弱々しく掴み口を開いた。
「……ごめん、修一郎。こんなカッコ悪い所修一郎だけには見せるつもりなかったんだ。本当は、お互いヨボヨボの爺さんになってから同窓会で再会する予定だったのに」
「……お前が謝る必要ないだろ。土下座して謝るのはあのグズ野郎の方だ。おい、俺はヨボヨボになってから再会したくないぞ」
「あー、うん。そうだね。オレは、爺さんになった方がお互い過ごしてきた人生とか色々話せそうで楽しそうだと思う。修一郎が過ごしてきた人生聞きたいし」
「お互いそんなに生きてないけど今だって話そうと思えば高校卒業してからのお互いの事話せるだろ。今じゃ駄目なのか」
俺がそう言うと、奏は目を伏せて掴んでいる手首に力を入れてそっとが幼い子供が親にすがるように自分の額に俺の手を押し付けて小さく呟いた。
「……やっぱり爺さんになってからの方がいいよ。そうじゃないと、オレ色々やらかしそうだから。まぁ、もうやらかしてるけどさ」
奏は眉を下げて笑いそう言うと、俺の手首を離して視線を下に向けてまた黙り込んでしまった。
そんな、奏の前髪を片手で上げて額に絆創膏を貼り幼い子供にするように髪をくしゃくしゃとかき撫でてやった。
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