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その代わりに椎名は旭を受け止めると、「大丈夫?」と優しい声で心配してくれて、次には尖った瞳で健人たちを睨む。
「……今日はずいぶんと素直じゃないか」
椎名の言葉を上手く躱して、明はあははと笑った。
「だって、ウブなネコちゃんだし、泣かれてもめんどくさいじゃん? 正直……今日のはハズレだったかなあ……」
明の一言に便乗して、周りからふざけた笑いが起こる。
その光景は気分が悪く、心臓をぎゅっと握られたかのように胸が痛い。抱きたいと甘く囁きながら、本当はそう思っていたんだ。裏切られた気分で、少しでもこの人にドキドキしていた自分が浅ましく思える。
「おい、声をかけておいて流石にそれはないだろ」
すると、旭の腰に椎名の腕が回ってきて、ぐっと引き寄せられて。その行動は今の旭にとって嬉しくもあり、心強い味方であった。
しかし、明と健人は旭を手放したことにより椎名の言葉を聞く気もなく、仲間を連れて立ち上がる。
「んじゃ、お楽しみにー。じゃあねー」
「待て。どこか行く前に、まずこの子に謝れって……」
この場から立ち去ろうとして椎名が追いかけようとするが、旭は椎名の前に出てそれを止めた。
「いいんです。これで……いいんです」
危ないことから免れた。椎名が助けてくれた。それだけで旭の未来は十二分に違った。
嵐のような一難が去り、ほっと胸を撫でおろしていると、ぽんぽんと頭に椎名の手が乗る。旭が顔を見上げれば、椎名は優しい笑顔をくれた。
「さっきのは気にしなくていいから。あいつら、この辺りで君みたいな子を引っかけてんだよ」
「……ありがとうございました。すみません……知らずに迷惑をかけてしまって」
「いいよ。こういう場所は初めてかな。失礼だけど、未成年ではないよね? 見た目が若く見えるから……」
「成人はしてます。二十歳です」
「ならいいけど。気をつけて……って言っても、あいつらみたいなのばかりじゃないから、楽しむことは楽しんでね」
運が悪かっただけだよ、と椎名は苦笑する。
そんな椎名の顔を旭は見つめた。椎名の顔は、女受けがよさそうで、かっこいいほうだと思う。人助けをするくらいに優しい人だし、彼女やはたまた家族を持っていると言われても納得出来そうだ。
ただし、ここはゲイバー。このバーについては異性、同性の規定は緩いが、知らないで入ったということはないだろう。どういうきっかけで、この世界に手を出したのだろう。自分と同じような葛藤もあったのかな。
ゆくゆく旭は、椎名のことをもっと知りたいと感じていた。そして、その想いがいっぱいになって、気づけば自然と口から漏れていた。
「……あの! よければ今日ご一緒させてもらってもいいですか?」
「んー……いいけど、君こそいいの? 俺、もうすぐ三十五くるし、君にとってはおっさんじゃない?」
椎名の年齢を知り、さらに驚いた。それに知りたいという気持ちも膨れ上がって。
「え。そうは見えませんでした……三十手前あたりかと。俺は大丈夫です。でも、もし迷惑だったら断ってくれて構いません」
断られたらそこまでのこと。でも、出来れば椎名に承諾して欲しいと、旭は少しばかり大胆になっていた。
まっすぐ見つめる旭の瞳。椎名の頬が和らいだ。
「迷惑じゃない。おいで、二階で飲んでるんだ。ちょうど一人酒が寂しいと思っていた頃でさ……あ、そうそう。俺は椎名っていうんだけど」
「旭といいます……!」
「旭くんね。行こうか」
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