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【番外編】金と黒 12
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そのあと明が起きたのは浴室でのことであった。
意識が戻り、うっすらと瞳を開くと、温かいシャワーが身体にあたっていた。特に身体は激しい性交により鈍くなっていたので心地良く感じる。身体は仕方ないとして、深く眠れていたのか思いのほかスッキリしている。それだけ最近は寝ていなかった。
明は視線を下方へ向けた。前に回っている腕は祐馬ののものだ。明の身体を支えるために強く抱き締められていた。
祐馬と肌が密着している。肌が触れ合ってるって、こんなに気持ち良いものだったっけ。今まで体験したことのない気持ちで不思議に思った。
「祐馬……」
少し枯れている声。祐馬の名前を呼んだあと、明は軽く咳をした。
「起きた? ごめん、気を失うまでしちゃって」
「……いい。求めてたのは俺のほうだし。何時かわかる?」
「んーとね……夜の十一時になるか、ならないか辺りじゃないかな」
「そう……家に帰らないと」
浴室の時点で薄々勘づいていたが、やはり時間的に長く眠っていなかったようだ。
明は祐馬の腕の中から逃れ、立ち上がる。まだ下半身が痺れているような違和感が残っているけれども、歩く分には問題ないだろう。油断してゆっくりしていると終電も近くなるし、早いところホテルを出なければ……。
すると、祐馬も立ち上がって明を引き止めにかかって。
「ええ、今から? 延長して朝まで泊まろうよ」
「明日、早出なんだよね」
「なんでそれを先に言わないかな……」
「……忘れてた」
本当のところは違うけれど。
「明に限って、そういうことはないと思うけど」
それは祐馬もわかっていたようで、疑いの目を向けられた。
その瞳を見て明は苦笑して、祐馬の首に腕を絡める。そして、頬をめがけて唇を軽く押しあてて。浴室の中のせいか、小さくてもリップ音がよく響く。
「ほんとだって。忘れるくらいに気持ち良かった」
「明」
「ん?」
腰に祐馬の腕が回った。ぐいっと強く引き寄せる辺り、祐馬は男らしいと思う。
「俺たち、付き合わない?」
しかし、次の瞬間には明は祐馬を突き放していた。
「明?」
突き放した手が震える。
今なんて言われた? 付き合う? それは無理だ。健人のことを想っているのに、祐馬に失礼だ。そもそも、今日のように祐馬を利用している時点でそうだけども。
答えは決まっている。祐馬には断らなくてはならない。でも、言葉が出せないのはなぜだろう。
自分には祐馬がいる。
健人が離れていった悲しさと、その思いがまとわりついて、言葉を詰まらせていた。
「少しは考えてくれてる?」
「わからない……」
自分自身が。まるで他人の身体に入っているかのように、自分がわからない。
明は再び口を閉ざし、俯いた。すると、祐馬の手が肩に乗って。
「すぐに答え欲しいってわけじゃないから、ゆっくり考えて。家に帰るなら、俺の家が近いから先に寄って明ん家まで送るよ。つってもバイクだから身体に響くかな……」
「大丈夫。まだ電車が走ってるし。……ごめん、一人にさせて」
その手を明は静かに払いのけた。
一人にさせてと言った明だが、結局はシャワーを浴びたあと祐馬とホテルを一緒に出て、電車の駅の途中まで一緒に帰った。その際に話をしたが、内容はまったく覚えていない。もしかすると、ずっと上の空で頷いていただけかもしれない。確実に言えるのは、いつもよりぎくしゃくしていて会話が極端に少なかったことだろう。
そして、帰宅してすぐにベッドに倒れ込んだものの、やはり眠れやしなかった。日々の睡眠不足に身体が重くなっていく毎日だった。
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