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【番外編】金と黒 23
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明は、震える手を隠すように背中へ持っていく。そして、ぎゅっと強く握り締め、震えるのを抑えた。
すると、健人がばつの悪そうな表情をして。
「なんとかなんねーかな……あいつ、自分のことは置いといて、明を傷つけたんじゃないかって落ち込んでっからさ……」
「今はちょっと……また手を上げそうで怖い」
戻ったとしても、健人と凛を見れば自分がどうなってしまうかわからない。きっとモヤモヤしたものが膨らんだあとに爆発して、同じことを繰り返してしまいそうだ。だが、そういう中でも、明の心は確実に揺らいでいた。
健人に振り回されている。幼い頃から健人の背中をついて行った明。大丈夫。うん、いいよ。健人がそうするなら……。結局、明は健人に弱いのだ。
そして、健人からトドメの一言が明に刺さる。
「凛は明のことを好きなんだって。その気持ち、汲み取ってやれよ」
思わず明の顔が引き攣る。
「……え、なに……それ。待って、健人はそれでいいの? 凛のこと好きなんでしょ? 凛は健人のお気に入りじゃん」
「居心地は良いって言ったけど、好きとは言ってねーだろ」
開いた口が塞がらない。
あれだけ凛のそばにいたというのに、健人はなんでもないように言う。凛に嫉妬した。その結果、怪我を負わせてしまった。凛の気持ちを汲み取ってやれって、どうすればいい。好きと言われても、明が健人を好きということは変わらないことだ。
健人から言われて、明はショックだった。やり場のないこの気持ち。鼻の奥がツンと痛くなり、胸も痛くて上手く呼吸が出来ない。
「なんなの……? 謝らなきゃいけないことはわかってる。凛のことをどうにかして欲しいっていう健人の気持ちもわかるよ……でもさ、仮に凛の気持ちをわかったとして、俺の気持ちはどうなるのかな……?」
「明?」
「健人ってば、俺の気持ちを考えたことある? ないよね? だから、話題を出せば凛のことばかりなんだよね? 凛が俺のことを好きだからって俺にどうさせたいの? 謝らせたいだけ? ねえ……それを好きな人に言われる俺の気持ち……わかる……っ?」
じわっと瞳が潤い、涙を流すのを耐える。しかし、精一杯出した声は最後のほうで震えてしまった。
「……は? 明ってほんとに俺のこと好きだったの?」
驚いているの健人は、とんでもない間抜け顔だった。
ぶわわ、と羞恥が込み上げて、明の顔に熱が溜まる。目の前の男を思いっきりぶん殴ってやりたい気分を抑えて、明は健人にはっきりと言ってやった。
「っ……嫌いだよ! よくわかんない金髪も、馬鹿みたいにつけてるピアスも、遊びまくってるところも、すぐ飽きるし、意地悪っていうか、むしろ悪魔だし! 全っ然、人の気持ち考えてない馬鹿男! 良いところなさすぎて……全部嫌い……っ!」
目尻に溜まった涙はボロボロと零れだす。明は零れる涙を袖で大胆に拭ったが、止まる気配はない。仕方なく、嗚咽混じりに続けた。
「でも……嫌いになりきれない……! 何度もなんでこんな奴なんか好きなんだろうって思った! 嫌いになろうって……でも、やっぱり俺には健人しかいなくて……馬鹿みたいっ」
──明、一人でなにやってんだよ! 早くこっち来いよ!
──明ーっ! また俺たち一緒だな!
ヒーローみたいで、憧れの存在だった健人。明るい性格に本当に何度も助けられたと思う。
どうしようもないくらいに好き。健人に彼女が出来て嫉妬心を覚えてから、どれくらい健人だけに恋をしたことだろう。
「おい、なんで泣くんだよ……そういうの、ずるいだろ」
幼い頃から今までの中で、初めて見る明の泣き顔に健人は困惑している様子だった。それはそうだ。あまり表情を出すことのなかった明が、今、仮面を剥がして泣いている。健人のことを好きと言いながら。どうしていいのかわからないが、放っておくことも出来ない。
明は流れる涙を拭い続けていると、健人が再度、空いている手を掴んでくる。
「っ……泣きたくて、泣いてるんじゃない!」
しかし、明は反射的にそれを振り払って、そのまま健人の頬をスパンと叩いていた。じんじんと痛む手。駄目だ、やっぱり衝動を抑えられなかった。
「ってー。なんでまた叩かれなきゃなんねーんだよ……」
「健人なんか好きにならなきゃ良かった……」
頬を押さえている健人は、なにかブツブツと言っている。
そんな健人に明は静かに言い残して、涙を無理やり拭うと、その場から逃げだす。全力疾走で駆けて、健人から離れた。
「あっ、おい! 明!」
背後から健人の声が聞こえ、追いかけてくるのを感じる。だが、職場の近い明のほうがこの辺りの道を熟知していて、途中から健人の気配はすっかり消えていた。
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