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【番外編】金と黒 26
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大きく深呼吸をする。そして、小さな包み紙をぎゅっと握り締めると、そのままケイトの胸へ突き返した。
ここは流されるわけにはいかない。
「……無理。やるなら他あたって」
「いやいや、待って。飲むだけじゃん。あとは天国だよ?」
「そういうことするならセックスはしない。ばいばい」
明は軽く乱れた服をささっと整えて、ケイトの元を去っていく。新たに男を漁るにも、今日は萎えてしまった。また今度……と言っても健人の問題があったか。面倒だ、と小さく溜め息をつく。
しかし、そんな簡単にケイトが逃してくれるわけがなかった。咄嗟に腕を掴まれると、木の幹に押さえつけられて。
「はっ、ふざけんなよ……すぐ善がる淫乱のくせに。気持ち良くなりたいなら迷わず飲むべきでしょ」
健人から逃げるのに手首を掴まれた時もそうだったが、ケイトは力も強くて痛みで明の顔が歪む。明も明で力を振り絞って逃れようとするものの、一瞬だけ手が動くが、離してくれるというところまでなかなかもっていけない。
明はケイトを睨みつける。
「だから、飲まないって」
「るさいな……早く飲めよ……!」
「しつこい……っ」
ケイトが包み紙を開こうとしているのが見える。
ここから逃げないとまずい。明がケイトの腕の中をもがきながら、唇を固く閉ざしていたその時だった。
ドンッと鈍い音がして、目の前のケイトが横の茂みへ飛ばされる。そして、そこから姿を現したのは──。
「明! 逃げっぞ!」
「健人……!」
健人だった。健人はすぐさま明の手を掴んで、この場から逃げるよう走りだす。こくこくと頷きながら明も走った。
多分、健人が来ていなければ、あのまま抵抗を続けていてもケイトに無理やり薬を飲ませれていたところだろう。これは自業自得。それでも、奇跡的に健人が来てくれて助かった。恐怖が去って安心したのか、明の瞳は潤っていた。
今の健人は、昔、憧れたヒーローみたいだった。やっぱり好き。健人のことが好き。健人の背中を見て、今までの想いが溢れる。
「……すきだよ、健人」
この前、たくさん嫌いって言ってしまったけれど。ずっと、ずっと好きだったんだよ。
恥ずかしいから、自分だけ聞こえるように呟いてみた。すると、涙が頬を伝って。泣いてる場合ではないのに、なぜか気持ちと一緒に溢れて止まらなかった。
「ああっ? なんか言った?」
「い、言ってない!」
しかも、健人に声は届いていたようで、明の心臓が跳ねる。明がすぐに否定をすれば、健人はなにもなかったように流してくれた。
「とりあえず俺ん家に駆け込むぞ!」
「う、うん……!」
再び何度も頷いていると、健人が明のほうをちらっと見てくる。一瞬、前を向いたと思えば、こちらを二度見して。
「……って、ええっ、お前また泣いてんの? なんでだよ……ああもう、あとでだ!」
途中、大通りに出てタクシーを拾った。向かうのは予定通り健人の家だ。健人が運転手に場所を伝えると、タクシーは発車する。
そこから到着するまで会話はなく、静かな時が流れた。でも、明が泣いているのを見たせいか、健人は繋いだ手を離さなかった。走って汗ばんだ手のひらは温かい。明も離すことはなく、ぎゅっと握り返していた。
数十分、タクシーでやり過ごしたあと、健人の家へと入る。
たまに訪れたことのある健人の家。たいてい健人が明の家に訪れるものだから、その機会はあまりない。その上、喧嘩もしていたので、この場所はだいぶ久しぶりだ。健人が明の家のほうが快適と言うのは部屋が汚いからであって、今でも明のイメージはそうであったが、それほど汚くはなかった。むしろ片付けられていて明は感心していた。
しかし、脳裏に浮かぶのは凛の姿。凛がやってきて片付けたのではないのかと思ってしまう。
そんなふうに入ってきた部屋を見ていると、健人が話しかけてくる。
「なあ、俺、間に合った? 変なことされてないよな?」
「ん……されてない」
「はー、良かったー……タイミング伺ってたら気づかれて逃げられるし、見つけたと思ったら揉めてるし、マジ焦ったわ」
健人の腕が明の身体を包む。そのままぎゅっと抱き締められて、明はドキッとした。驚きすぎて、すかさず健人の胸を押して離れると、話題を探して目を泳がせる。
どうかしてるというくらいに、明は健人の抱擁で動揺していた。そのせいで、明から出てきた言葉は健人を呆れさせるもので。
「あの、さ……あんまり強く殴ってないよね……?」
「はあ? なんでアイツの心配するんだよ」
自分でも、なにを言っているのだろうと思う。
「い、いや……あんまり強くやってると、警察とか……」
「心配するほどじゃねーよ。つーか、正当防衛だわ」
健人は「そうだよね……」と肩を落とす明を見て、溜め息をついた。そして、続けて呆れた口調で言う。
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