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【番外編】金と黒 27
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「だからヤベーつっただろーが」
「……今回は助かったと思ってる」
まさか薬を出されるとは思っていなかった。これまでにどんなプレイをしてきても、そういうのは一切なかったから明も油断していたのだ。それに、健人のことで頭がいっぱいになっていたことだし。
明が俯き気味に答えると、健人は不満そうな声をあげた。
「今回はぁ? まだ続けるつもりか? なんで懲りてねーんだよ」
明もそれに続く。
「なんで? 何回も言うけど、健人には関係ないことだよね……急にどうしたの?」
髪だって、ピアスだって。
確かに健人のせいだと嫌味を言ってしまった。好きだと言ってしまった。けれど、ここまでするとは思えない。凛の時みたいに言っても無駄、勝手にしろとでも言われるかと思っていたのに。
惨めな明を可哀想だと思ったのだろうか。幼い頃、一人でいた時に手を差し伸べてくれたように、助けてあげなくちゃと。
(同情されたくて言ったわけじゃないんだけどな……)
考えているうちに悲しくなってきた。
健人の顔が見れなくなり、顔は俯くばかり。すると、健人が明の顎を鷲掴みして無理やり目線を合わせられて。近づく顔は険しい表情だ。
「明さ、危機感なさすぎだろ……なにも考えずに男漁りすんな。バーあちこち変えて釣ってたろ。この辺りで有名になってきてんだぞ……タダでなんでもヤらせてくれるヤツがいるって。実際はもっと酷い言われようだったけどな。ヤバいヤツだって動き始めてたし……」
「だからか……」
「なにが」
「なんで健人がここまでするのかなって思ってた。今まで誰に抱かれてもなにも言わなかったし」
「それは仲間内でだろ。てか、それだけじゃねーわ、馬鹿」
再度、逃げる明を捕まえるように健人の腕が背中に回ってくる。ぎゅうっと抱き締める腕は苦しいくらいに強い。健人は明の首筋に顔を埋めて、明の存在を確かめているようだった。
「な、なに。苦しいから離してよ」
「いやだ」
勿論、明は落ち着いてられない。しかし、今度は胸を押せるほど身動きがとりにくく、健人の体温と匂いを十分なほどに感じた。
「俺、健人のこと……っ」
好きなのわかってる?
思わずそう言ってしまいそうになって、明は咄嗟に出かかった言葉を飲み込んだ。好き、と言うのは恥ずかしい。ケイトから逃げる時に胸が熱くなって口を滑らせてしまったが、健人を目の前にして言うなんて、まずありえないことだ。その前に心臓がどうにかなってしまいそう。
一つ呼吸をして、明は冷静になりつつ口を開く。
「……ほんと離して。わかってるでしょ。髪も、ピアスも……前と全然違うじゃん。なんで……?」
「明は嫌いなんだろ……そういうの」
健人の声が、耳から身体全体に甘酸っぱく響いて震えた。
やはり健人の見た目が変わったのは、明が嫌いだと言ったからであった。その分、謎は深まる。どうしてそこまでするのだろう。嫌いと言ったとしても、健人の好きなようにしたらいいのに。
健人をそうさせてしまった。明の中で罪悪感が胸を締めつける。
「だからって俺に合わせる必要はないでしょ? そういうの、やめてよ……」
そして、それとは裏腹に期待をしてしまう。
明が泣きそうな声で言ったあと健人の肩に顔を押しつけていると、腕の力が弱まった。まだ健人の腕の中にいるが、密着していた身体の間に空間が出来て、明は身体を離すとともに顔を上げる。
健人の顔は、気まずくて見ることは出来ない。目のやり場に困り、斜め先にあるソファーを見つめていると、健人がクスッと笑った。
「明って、そういう顔するんだな」
「え、なに。どういう顔?」
そう言われると聞き返すしかない。
まんまと乗せられた明は健人と目を合わせて、しまったと肩を揺らす。瞳に映る健人の表情は、ニッと意地悪く笑っていて。
「顔真っ赤。ほんとに好きなんだ? 俺のこと」
ぶわっと全身の体温が上がった。
「は……? え、……っ、見ないでよ……!」
手や腕で顔を隠してみるものの、健人の視線を感じる。いたたまれなくなって、結局、明が落ち着きを見せたのは健人の肩に顔を埋めることによってだった。
聞くんじゃなかった、と心の中で何度も繰り返し呟き、羞恥に耐える。心臓がドキドキと跳ねて、ぐるぐると目が回るような感覚だった。
これはいつもの自分じゃない。健人の手のひらで踊らされている。落ち着かないと……でも、どうやって。
(恥ずかしくて泣きそう……)
じわり、と瞳が熱くなるのを感じる。すると、後頭部に健人の手が添えられた。
「やっと凛の言うことがわかってきた。よーく見たら可愛いわ、お前」
また甘酸っぱく響く言葉が明の身体を震わせる。
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