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【番外編】金と黒 28
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可愛いってどういうこと。それは凛や、釣ってくるかわい子ちゃんに言うものだと思っていた。健人に可愛くないとはっきり言われたことは何回だってある。
顔にどんどん熱が集まるのがわかって恥ずかしい。どうして、なんでの疑問を繰り返し続けていて、とうとう目の前にいるのは健人で合っているんだよね、と明は疑ってしまった。無駄に考えてみるが、どう考えても健人であることに間違いない。
健人は添えた手で明の髪を撫でながら続けた。
「俺はさ、明はどこにでもついてきてくれるし、離れていかないもんだと思ってた。凛の時もさ、どうせあとから戻ってくるだろって。けど、連絡がとれなくなって、家に行っても一向に戻ってこねーし、変な噂たってると思えば明のことだったし……すっげー心配したんだからな」
ちゃんとここにいるよな、と健人が明に顔を擦り寄せて。なにか健人の動きがあるたびに、明は肩を跳ねさせた。
以前は、はいはいと気軽に抱き締めることが出来ていたのに、今なんて腕を回すことさえ躊躇っている。甘ったるくて、もどかしい。やっぱりこの雰囲気は苦手だ。
「明がいなくなったって実感して、なんてゆーか……当たり前だったことがなくなった感じ。なんか妙にもの足りないって、どこかで思った」
健人の腕が解かれると、両肩を持たれて身体が離れる。
まだ顔は見られたくなかった。明が慌てて手で顔を隠していると、健人から「明」と名前を呼ばれて。仕方なく顔を健人のほうへ向ければ、想像以上に真剣な表情をしていてドキッとした。
今日はお互いに自分らしくない。幼い頃から一緒にいた幼馴染がまるで別人のようで。
「で、ようやく気づいた。俺は明が必要なんだって。そばにいてくれないと駄目なんだって」
「う、うん……健人がそれでいいなら、これからも一緒にやっていけたら……って思うよ?」
いつも通りにしたい。そういう思いが強かったのか、明は言葉の意味を理解出来ないまま返事をした。
はあ、と大きく溜め息。そのあとにやってくる健人の鋭い目がチクチクして痛かった。
「お前こそ、ちゃんとわかってんのか? 正直、好きっていうのはわからねーよ。でも、俺が一番失くしたくないのは明だ。髪もピアスも明に嫌いって言われるのが嫌でやめた。明にはもう嫌いって言って欲しくねーし……これって好きってことじゃねーのかな」
「ど、どうかな。俺が……す、好きって言ったから同情したんじゃないの?」
「いや、それはねーな。てか、三回も打たれたら、そりゃあ目ぇ覚めるわ」
「三回? 俺、そんなに健人を叩いたっけ?」
一回、健人に再会した時に叩いてしまったのは覚えている。好きと泣いてしまった時だ。今思うと、あれを外でやっていたなんて見苦しくて思い出したくない。
健人は「実は……」と後ろ髪をくしゃくしゃと掻きながら教えてくれた。
「明に打たれる前に二回やられてる。一回は祐馬。明がいなくなって祐馬に聞いたら、知らねーって言われた上に、お前がなんとかして戻してこいって。んで、あともう一回は凛」
「えっ、凛……? 凛がそんなことする?」
「おー、されたわ。凛が明のこと好きなのにどうしようって落ち込んでた時に、咄嗟に凛は明にはもったいねーわって答えたらな。明をそういう風に言うな、酷いって……でも、なんでだよ。こんなめんどくせーヤツの面倒なんて、俺ぐらいしか見れねーだろって思うけどな。アイツには絶対無理」
どこかで聞いたような言葉に、明は瞳を丸くさせた。
「……ま。打たれたから色々考え直してさ、今こうなってる」
「逆に頭おかしくなったんじゃないの?」
「おい」
「だって健人、別人みたい。変なの」
それは良い意味でだけれど。
健人が不機嫌そうにむすっとしている。対して明はというと、なんだか気が緩んでしまい、ふっと笑った。健人に対して、こんな気楽に笑ったのはいつぶりだろうか。
「健人と正反対だと思ってたけど、案外似てるのかもね。俺たちって……」
──でもさ、だから俺に祐馬はもったいないんだよね。あいつくらいのほうが、ちょうどいいんだよ。
明は祐馬に言ったことを思い出した。祐馬と凛には申し訳ない気持ちが残るが、やはり明は健人でなければならないのだ。
瞳を細める明の様子を見て、難しい顔をしていた健人も表情を柔らかくさせた。
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