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【番外編】金と黒 29
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「明。変な男漁りをやめて、こっちに戻ってくるよな?」
「ん……そうだね」
「凛にも一緒に謝りに行こう。絶対大丈夫だって」
「ん……」
凛のことは、まだ怖いものがある。だが、進まなければなにも変わらない。
明は小さく頷いた。その手は、いまだにあの光景を思い出して震える。すると、健人がもう一度「大丈夫」と言って、明の手を自らの手で包んだ。なぜだろう。不思議と震えは止まっていて、魔法のようだった。
ほう、と安堵の息を吐くと、今度は健人が爆弾を落としてきて。
「明、好きって言ってくんね?」
「え……無理」
「はあ? なんでだよ。好きは大事だろ……嫌いばっか言われたし」
そう言われると、なにも言い返せなくなってしまう。うう、と明は俯いて身体を小さくした。
良いところなさすぎて、全部嫌い。確かそんなことを言ってしまったような。終わってしまったものは仕方ないが、過去の発言に後悔する。やはり感情的になるものではないなと実感した。
「それは悪いと思ってる……でも、そういうの恥ずかしくない?」
「それ以上に恥ずかしいことしてるだろ」
「こっちのほうが恥ずかしい」
突然、静かになる空間。
健人はなにも言ってこなくて、諦めたのだと明は思った。だが、そのあとすぐに、もしかすると怒らせたかもとも怖くなる。
健人の足が明へと近づくのが見えた。衝動的に明は後ずさりして。それでも、健人が近づいてくるので顔を上げると、じっと見つめられていたことがわかった。
どうしたの。そう聞く前に、健人の口が開く。
「好きだ」
「えっ」
せっかく落ち着いていた明だが、またもや体温がどっと上昇した。そして、そのせいで身体がフリーズしてしまい、すぐさま健人の腕に捕まる。
「明、好きだよ」
「なに言って……さっき好きかわかんないって言ってたでしょ! 好きが軽いよ……」
「でも、俺たち付き合うんだよな? なら、明から好きって聞きたい。好きだ、明」
耳に甘く響く声。そんな囁く声に明はぶるりと身体を震わせた。
熱い。心臓がうるさい。こんな感覚は初めてで、右も左もわからない。これなら、まだ密かに片思いをしていた時のほうが気が楽だった。
好きなんて、恥ずかしくて──。
すると、健人は耳元で「好き」と言い続ける。健人も健人で、こういう恥ずかしいことをする人だなんて知らなかった。
やめて、と言っても続けられる甘い告白。いつまでも止まらないそれに、もう駄目だと明は観念して、ゆっくりと唇を動かした。
「……っ、す、き……」
これだけにどれだけ体力を消耗したことだろう。
健人はニッと嬉しそうに笑い、唇を近づけてくる。
「待って! 今、キスは駄目!」
しかし、明が健人を突き飛ばすことによって、口づけは叶わなかった。
「あ? なんで……あ、お前、アイツとキスしたろ」
ぴくり、と明の身体はわかりやすく反応する。
その瞬間、健人の表情が恐ろしいものとなった。今度こそ健人を怒らせたようだ。目が据わっていて、背後にはなにやら黒いオーラが見えるようで。
「ふーん……ちょっと消毒させろ」
「ちょ……健人? 顔がヤバいよ? キスなら、またあとでいっぱいしよ……?」
「無理」
健人の身になにが起こっているのかわからない。ただただ怖い。歩み寄ってくる一歩一歩が怖くて後ずさりをすれば、やがては壁に辿り着き、明の逃げ場がなくなってしまう。
明から思わずははっと乾いた笑いが出てしまって、健人の胸を力いっぱい押し返すと、簡単に手首を取られて壁に縫いつけられて。それがいとも簡単なことのように行われて、明の笑いも消えていった。健人を怒らせるものではない。喧嘩はしてきたけども、ここまで思うのは初めてだ。
これで、明の健人を止めさせる方法は皆無となった。誰か目の前にいるこの人を止めて欲しい。そう願っても、この空間には明と健人だけ。助けてくれる人なんていない。
「ある意味、そいつに感謝するわ……やっとわかった。あと好きかわかんねーって言ったこと訂正する。すげー妬くくらいに明のこと好きみたいだわ」
「え……? で、でもさ、仲間の時はなにも言わなかったでしょ?」
「仲間は仲間だからな。でも今後はさせねーよ」
「いや、意味わかんない……健人、ほんとにやめようよ」
「諦めろ」
明が説得に向かった結果は惨敗である。
唇は健人に奪われて。次に息継ぎした時には、口づけは簡単に深くなった。獣のように荒い口づけだったが、侵入してきた健人の舌は丁寧に上顎を擦り、歯列までなぞられて。舌が絡まれば、くちゅりと唾液が混ざる音と一緒に明の鼻から抜ける声も部屋に響く。
ちょっと消毒させろの“ちょっと”とは、いったいなんだったのか。波に飲まれるような口づけに明の腰は砕け、ずるずると壁を伝って床へ崩れ落ちていく。それでも、執拗に口づけは続いて、健人の言う“消毒”が終わる頃にはぐったりしていた明だった。
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