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【番外編2】裸足のシンデレラ 3
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凛ちゃん、凛ちゃん、と背後から呼ぶ声。恐怖に怯えながら、空回りする足をなんとか動かしてホテルを出た。しかし、ホテルを出た瞬間、気を抜いてしまったのか足が絡んでしまい、その場に転けてしまう。すぐに立ち上がろうとしたものの、どうも力が入らないようだ。
ここはホテル街ではなく、こじんまりしたところだが、人気がないわけではない。盛大に転けてしまった凛に視線が集まった。助けを求めたいのに、ただ視線が集まるだけ。関わりたくないのか、助ける手はなく、みんな素通りだ。
凛に触れてきたのは、残念ながら道彦の手だった。腕を掴まれて、ホテルへ連れ戻そうとする。
「凛ちゃん、戻ろう? 今日はうんと可愛がってあげるから……ね?」
「や、やだ! 離して!」
それを拒めば、道彦の握力が強くなって。
「離さないよ……絶対に離さない」
「痛っ……痛い……ごめんなさい、ごめんなさい……」
ほっそりした凛の腕が折れてしまうのではないかと思うくらいだった。
見下ろす冷たい視線に、力の篭っている手。優しい声で語りかけてくるが、道彦は自我を失っている。いや、これが本性というべきか。
精神的に追い詰められて、凛は恐ろしさのあまり涙を零した。もう頭もパニックになっていて、謝ること以外なにも出来ない状態だった。
「りーんちゃん。お願いだから逃げないで? すぐにでも離婚出来るから。嫁と別れたら、指輪、一緒に買いに行こうね」
「やだ……こわい……」
「ほら、早く立って。目立つでしょ」
これを抜けられる手立てがないのなら、立ってしまったほうが楽? どうせ自業自得だ。けれど、もし立ってしまったら、どうなる?……嫌だ、立ちたくない。
ひくひくと嗚咽を漏らし、怯えながらも、凛は首を横に振った。これが凛の最後の抵抗だった。
これ以上、道彦に踏み込まれたら耐えられない。そう諦めかけようとしていた時、道彦の手首を掴む手が凛の目に入ってきた。凛のものでも、道彦のものでもない第三者の手だった。それを辿ってみると──。
「おい、おっさん。離してやれよ、嫌がってんだろ」
(ゆ……うまくん……?)
意外にも凛の知っている顔が現れた。それは乱パグループの仲間であった祐馬だった。
祐馬が脱退してから連絡をとっていなかったので、久しぶりの再会である。でも、まさかこんなところで会うとは。偶然にしても、今までグループの仲間に一度も会ったことなんてないのに。案の定、凛の視線に気づいた祐馬も凛の顔を見て驚いている様子だった。
「そっちこそ離してくれる? これはこっちの問題だから、君に入って来られても困るんだけど?」
「おーおー、困れよ。いい年して無理やりとはみっともねえな」
「無理やり? 無理やりじゃないよ。ちゃんと愛し合ってる仲だから。ね、凛ちゃん?」
祐馬と道彦のやりとりを聞いていると、道彦がいきなり話を振ってきて肩がひくんと跳ね上がる。“愛し合ってる仲”と断言されて、凛は恥ずかしさしか感じなかった。この恥ずかしさというのは、出会った頃に言われていたら嬉しくて仕方がないと思っていただろうから、過去の自分も兼ねてだ。
祐馬の目が凛に向けられる。見なくても、凛が涙を流して怯えている時点で答えが出ているようなものだが。勿論、凛の答えも決まっていた。
道彦も見ている中で、凛はぶんぶんと大きく首を横に振った。
「凛ちゃん? なんで……否定をするのかな?」
「本当にそうなら、こんな騒ぎになってねえんだよ。というか、早く離せっての。おっさんの割にしつけえな」
グッと道彦の手首を握る祐馬の手の力が強くなった。そのおかげで凛の腕は道彦から解放される。ようやくだ。短い時間がこんなに長く感じることなんてあっただろうか。
解放された腕は、ずっと握られていたせいで、じんじんと痛みが走っているし、きっと痕にもなっているだろう。だが、逃れることが出来たのが一番の救いだ。
ほっと安心したのは束の間のこと。とうとう怒りが膨れ上がった道彦は手を上げて。
「ったいな! さっきから失礼だぞ! 邪魔だって言ってんだよ!」
「はーい、暴力はんたーい」
しかし、冷静だった祐馬が一枚上手だった。軽く躱した祐馬は、もう一度、道彦の手首をとって背中で固める。あっという間のことで、まるで刑事もののドラマを見ている気分だった。
凛が唖然としていると、祐馬と目が合った。その視線は今のうちに早く逃げろと言っている。凛は頭を下げてから、急いで立ち去ろうと地面を蹴った。
「あ、おい! 逃げるのか!? ちょっとコーヒーひっかけて優しくしたら、ホイホイついてきたから可愛がってやったのに!」
すぐに聞こえてきた道彦の本音で悲しい気持ちになったが、止まることなく、夜の道を駆けていた。
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