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【番外編2】裸足のシンデレラ 5
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カフェへと入り、凛はカフェオレを、祐馬はコーヒーを頼んで席に座った。店内はゆったりとしたジャズが流れている。コーヒーの匂いに音楽。痛かった心の傷も、今だけは少しずつ回復していくような気がした。
しかし、それとは別で、凛はガムシロップを入れて何回もかき混ぜながら、次の会話を悩み考えていた。祐馬とは先程まで普通に話せていたはずなのに、入店してから「なに飲む?」ぐらいの些細な会話以外、沈黙が続いている。おそらく、祐馬はあえて道彦のことを話さないでいてくれてるのだろうが、会話がないのも気まずい。
グループにいた時はどんな会話をしていたっけ。周りにたくさん仲間がいたから、もしかすると流れに任せていたのかもしれない。そもそも身体を合わせることが会話のようなものだったため、実際に仲間のことを詳しく知っていないかもしれない。
会話がない中で、祐馬の気遣いを無駄にするのは申し訳ないけれど、ただ感謝だけはしたい。凛は腹を括って口を開く。
「あ、あのね、祐馬くん」
「んー?」
「今日はありがとう。本当に助かった……祐馬くんが来なかったら、あのあとどうなってたか……」
「どういたしまして。ちょっとは落ち着いた?」
「うん」
「着拒とか、その辺ちゃんとしとけよー?」
祐馬は凛が落ち着くまで待ってくれていたみたいだ。なにからなにまで祐馬に助けてもらっている。優しすぎて申し分ない。
「あいつ、嫁、嫁ってブツブツ言ってたけど既婚者?」
「……ん」
「そっか……こういう世界だしな。そういうお友達作るなとは言わないけど……前の俺らもそんな感じだったし。けど、相手ぐらいちゃんと選べよな」
「……うん、ごめん。誰も頼る人がいなくて、気づいたら……あんな風になってた」
不倫を続けていた自分がみっともなくて、凛は俯いた。
お互いに知り合いである関係で、この事実を見られてしまったのは祐馬が初めてだった。本音を言えば、知って欲しくなかった。情けない自分を見せたくなかった。祐馬は気を遣ってくれて普段と変わらず接してくれているが、印象は変わったことだろう。
祐馬の「誰も、ね……」という声に凛の身体が跳ねた。祐馬はなにを思っているのだろう。それが怖い。しかし、特に変わることなく喋りかけてくれて。
「凛ってグループから脱退したんだっけ。誰かが言ってたような……」
「抜けたよ。健人さんと明さんに続いて抜ける人が多くなって、集まり自体も少なくなっちゃったから……」
「他の仲間からもそう聞いてる。脱退してから仲間と会ってないの? んーと、そうだな……凛なら大ちゃんとか、ふーちゃんあたりが誘いやすいんじゃない?」
「俺、だいぶあとから入ってきたから誘いにくくて……健人さんと明さんと稀に連絡するくらい……」
「えー、なんのための仲間だよ」
しょうがないな、この子は、という風に祐馬は笑う。そして、コーヒーを口にしてから「じゃあさ……」と続けた。
「今度、明と会う予定なんだけど、来る?」
「えっ、いいの?」
明に会える。凛の声のトーンが上がった。それはもうわかりやすい反応で、祐馬を見る瞳もキラキラしている。
そんな凛の表情を見て、祐馬は吹き出してしまった。その一方で心の中では、凛に元気が出たようで安堵していた。お互いに明が好きだから、“明”というワードは魔法のようなものだ。
「凛ってば、わかりやすすぎでしょ。まあ、それは置いといて……少しは気分転換でさ、おいでよ。凛が嫌じゃなければね」
「嫌じゃないよ! 明さんに会いたい!」
「はは、素直でよろしい。それで決まりね」
凛は嬉しさのあまり、ふあっと息を漏らしながら椅子に深く腰かけた。まだ決まったばかりだというのに、そわそわしてしまって、またもや祐馬の笑いのツボをくすぐってしまう。最初から笑わせるつもりではなくて、冷たかった凛の頬に熱が差した。
そのあと飲み物を飲み終えると、わざわざ祐馬は凛を家まで送り届けてくれた。今日のこともあるし、危なっかしいからだそうだ。元々、優しい印象で気配り上手な祐馬。それでも、ここまでしてくれるのはなぜだろうと、凛は少し考えてしまった。
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